エコメモSS

□NO.3101-
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■復讐劇の黒幕を探せ!

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「川北以外全員正座」

 それはもう、センターの事務所でよく見る怖い方の春山さんの顔だ。俺全員正座と言われても、正直どうしたらいいかわからなくてあわあわするだけ。だって、林原さんはじめ今日の主催の青山さんにカナコさん、それからアオも正座させられて春山さんの恨み辛みを浴びせられている中でどうしろと。
 今日は春山さんの誕生日だということで、新年会めいた誕生会が開かれることになっている。部屋にはセンターでよく見るようなお土産の山が築かれていて、春山さんが帰省から帰ってきたんだなあという感じがする。だけど問題は、春山さんの帰省中にこっちで行われていたこと。

「よくもまあ、私がいない時を狙って面白いことをやらかしてくれやがったなあ、アーン? で、主犯はどっちだー? リン、和泉ィ。ま、和泉だな?」
「そうです!」

 大晦日の夜に、学祭の時に春山さんと林原さんが組んでいたブルースプリングというバンドが一夜限りの復活をした。それも、帰省中の春山さんに向けた当てつけのような路上ライブで。実際、林原さんは「春山さんへの復讐」を口実にこの企画に参加することになっていたそうだ。
 春山さんの逆鱗に触れたのはそれだけじゃなかった。その路上ライブの後で、青山さんの人脈の届く限りの人を集めたライブパーティーが開かれていたそうだ。ライブバーを貸し切って行われたそのイベントには、カナコさんやアオも出演者としてエントリーしていたらしい。
 手の届かないところで面白いことをやって、それをネットの生配信で見せつけるという手法で行われた春山さんへの復讐は成功したんだと思う。成功してるから、こうやってそのイベントに参加していた人が正座させられている。俺はお土産の中から掘り起こしたバターサンドをつまみながら、終わる気配のない詰問を眺める。

「あ、カナコとお前さんはもういいぞ。正座解いてもらって」
「えっ、もう反省は終わりでいいんですか?」
「カナコは衣装ポイントが高かったからな。あと、お前さんは和泉に巻き込まれただけだろうしな」
「まさにその通りです。それどころか人に話を通さず問答無用でバンドメンバーとして組み込まれ」
「うわあ……さすがにそれは引くぞ」
「本当に本当だけどアオキちゃん酷い!」
「人に話を通さず人畜無害な後輩を脅してバンドメンバーとして組み込んだ畜生が何を言うか」
「黙れリン。でだ。問題はお前らだよ、和泉、リン」

 ここがセンターだったらその辺のイスくらいガシャーンと蹴飛ばされてただろうなっていう春山さんの圧だ。この部屋には春山さんの大事な物しかないから蹴飛ばされたりはしないけど、その分顔が怖すぎる。見てるだけでも恐怖でバターサンドの味がわからなくなりそうだ。

「あの、春山さん。お説教がまだ続くようなら私がお粥作ってきましょうか?」
「ああ、頼むカナコ。私も和泉が作るお粥よりかわいこちゃんの作るお粥が食べたいぞ」

 ちなみに今日の集まりは、地元で暴飲暴食した結果胃が疲れて荒れているだろう春山さんをいたわる七草粥の会だそうです。実際正月が開けてお粥くらいがちょうどいいくらいの頃にはなっているし、春山さんが春山芹っていう名前だからそれになぞらえての七草粥なんだろうなっていうことは想像がつく。

「なあ和泉よォ、そのライブの現場に須賀さんがいて? さらに須賀さんがブルースプリングの曲をやってたっつーのはただ事じゃねーだろ」
「本っ当に知らなかったんだって!」
「ンだと!? 黒幕のお前が知らないワケがねーだろぶっ殺すぞコラァ!」
「青山さんを擁護するつもりはないが、須賀誠司の登場は現場でも完全なる誤算だったとは言っておくぞ」
「ずーるーいー! ずるいずるいずるい! 私も須賀さんの生音をあの距離感で聞きたかったー! マジでぶっ殺すぞ和泉テメー」
「まだ芹ちゃんとの可愛い娘も作ってないのに死ねないよ!」
「は? やっぱコイツ殺すわ」
「死にたくないです!」
「殺されたくなきゃ須賀さんのライブSS席奢れ!」
「わかったよ、何とかしてみるよ」
「何とかするって。青山さん、須賀誠司のSS席チケットだと軽く1万にはなるんじゃないですか」
「まあ、死にたくないしねえ。芹ちゃんなら本当にやりかねないし」
「否定はしません」

 俺も否定はしません。春山さんなら本当に人の1人くらいはえいってやっちゃいそうな感じがあるんだよね。センターの受付では力の差があり過ぎて相手にならないような人を威嚇だけで帰してる感じだけど、同格以上の人とかだと容赦なく手が出るんだろうなっていう想像は簡単だ。

「だけど、何だって須賀さんがあの場にいて、ブルースプリングの曲をやってたんだ。お前が裏で手を引いてなきゃブルースプリングの曲を知ってるワケがないだろ」
「いやあ、ここだけの話だけどさ、俺とアオキちゃんがバイト先のメンバーで組んた打楽器バンドあるでしょ?」
「ああ、あの踊るバンドな。謎のでんでん太鼓」
「そう、ヴィ・ラ・タントン。あのタンバリンの子が須賀さんの娘さんと付き合ってるんだよ。それで、バンドごと須賀さんの自宅スタジオでお世話になってて」
「奴の組んでいるバンドのキーボードに課題曲としてブルースプリングの曲が多く行っていたこともあり、それを聞いた須賀誠司が場を荒らすことを目的に練習していたのではないか。というのが大方の見方だな」
「だからってなあ。多分あの現場にいた誰よりも須賀さんのファンだぞ私は」
「うん、実際そうだと思うよ」
「いくら私への嫌がらせのために開いたイベントだからってこの仕打ちはねーだろクソがってガチで思ったワケよ」
「イベントは当てつけのためにやってたけど、須賀さんの登場は本当に誤算でした」
「あの光景を見せられたときの私ならお前の手を切り落とすくらいは余裕でやれる」

 そう言って春山さんは壁に飾られていたライトセーバーを握るんだからシャレにならないんだよなあ。そんなことをしている間にも、台所ではカナコさんがお粥を作ってくれているし、好きな本を読んでてもいいって言われてたアオは本当に夢中になって本を読んでいる。宇宙開発の本のようだ。

「いやー、でもどんないい席でのライブでも、あのわちゃわちゃした感じの空気感は絶対にないワケだろ? やっぱ和泉だけは絶対許さねー。でもSS席チケットは奢ってもらう」
「ムチャクチャだ」
「ではオレは許されたということで」
「あ? 誰が許すっつったよ黙って正座解こうとすんなクソ野郎。カナコー! 酒持ってこーい!」


end.


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春山さんがキレ散らかしてます。ブルースプリングライブ主犯2名が正座させられている正月のあるある話から。
誠司さんの登場は本当に不可抗力という感じだったので、それまで責任を取れと言われればさすがの青山さんもたじたじである。
このお話のポイントは、お土産の山の中からミドリがバターサンドを自分でほじくってうまうましているところです。慣れてきたね。

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