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□EMERGENCY CALL
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―12月9日午前5時25分―

 一日で最も冷え込む時間帯。しかし、布団の中は心地いい熱。あれほど眠るのに苦労していた菜月だったが、一度眠ってしまえば寒さなどは全く意識することはなかった。
 むしろ、やわらかい毛布がその肌を直接包む感触が気持ちよくて抜け出せないほどだった。

 しかし、そんな彼女に忍びよる影。それは、音もなく迫り来る。

(…ん?)

 音はなくとも、空気の流れや匂いでわかる。いや、自分の領域に入り込んだ異物の気配だったのかもしれない。何よりもその影の放つ匂いが菜月の嫌いなタバコの臭いであった事も大きな要因だった。
 この時点で少し浅い眠りだったためか、体は動かなくとも意識だけがはっきりしていく。

 嫌な予感がする。

 目を開けてしまえば? そして自分の今の服装を考えた。……布団から出られない。
 意識が覚醒してくると、臭いだけだった異物の気配がより確かな物になり、物音でもわかるようになる。明らかに、自分以外の誰かがいる。菜月は、恐る恐る目を開いた。

 ベッドの横に、黒い影。タバコの臭いをさせた男がいる。横と言うよりはもう、ベッドに手をかけている。

 男の方も菜月が目覚めたことに気付いたようで、動きが一瞬止まる。体を起こした菜月は、叫ぶことも騒ぐことも出来ずに、震えた声で「え…?」と状況を呑み込むのに必死だ。
 菜月が完全に覚醒し、自らの存在が知れたと気付いた男は何をするでもなくそのまま去っていく。玄関のドアが閉まる音がして、その場に残るのは静寂。

 菜月は、男が去った後もしばらくそのまま動くことも出来ずにいた。
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