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□EMERGENCY CALL
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―12月9日午前5時30分―
自分の置かれていた状況を把握し、ようやく落ち着きを取り戻した頃、その時は感じなかった恐怖が一気にその肩に圧し掛かってくる。
もしも相手が包丁でも持っていたら? もしも自分が騒いでいたら? もしも相手に布団を捲られていたら? もしも、もしも……考えてもキリがないもしも話を想像して、一気にこの事件の恐ろしさを感じる。
しばらくは布団から出るのも怖くて出来なかったが、恐る恐る布団から出る。男がいないことを確認して玄関の鍵を閉める。
普段はあまりつけない部屋の電気やテレビもつける。テレビからは夜のニュースと何ら変わりない早朝のニュースが流れてくる。音量を上げて、少しでも気を紛らわす。
床に放り投げた服を拾い集めて急いで全てを着る。暖房も入れて、深夜に出したマグカップには再びホットミルク。
――独りでいたくない。
さすがに早朝、電話をしても相手は出てくれない。それでも今は早朝の電話がどんなに迷惑だとか、そんなことを考えている余裕はなかった。
『もしもし…?』
「・・・。」
『…なつきせんぱい、ですよね…?』
「ノサカぁ……」
後輩を呼ぶその声が、自然に震えていた。右手に持つマグカップの中のホットミルクも不自然に波を立てる。震える菜月の声が、言葉にならずともただの悪戯電話ではない事を彼に伝えた。
『…どうされました?』
「怖かった……」
『何がです?』
「さっき…ベッドの横に、人がいて……」
『夢とかじゃなくて、ですか?』
「そゆコト嘘吐かない……」
自らの置かれた状況を伝えるその声が何よりも嘘ではないことの証明だった。喉の奥からやっと搾り出すようなその声が。
『……大丈夫ですか? 何もされてませんか?』
「うん、多分」
『鍵は閉めてなかったんですか?』
「閉め忘れたかも…わかんない……でもとにかく怖くて、今ひとりでいたくなくて電話した……ゴメン、朝っぱらから」
『いえ、気にしないでください。それなら今からそっちに行きます。……とは言え1時間ちょいかかりますが、とにかくすぐ行きます!』
「うん、ありがと」