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□ドライブアウェイ
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「そう言えば、お前鉄道系目指してるんだって?」
「それ、どこから聞きました?」
「俺はあおいから聞いたけど」
「あおい先輩ですか?」

 あおい先輩は、星大に籍を置く星高男バスの元マネージャーで、広瀬先輩の彼女だ。星港高校入学からずっと学年トップの成績を保持してきたクールビューティーの先輩。

「合同企業説明会でいっちーが鉄道系のブース巡りしてたみたいよーって」
「あおい先輩星大ですよね? 俺星大の知り合いには最近会ってないんですけ、ど――」

 ――っと、そう言えばこないだ慧梨夏が「合同企業説明会でリンちゃんと会った」って言ってたな。

「お、その表情は、情報の出所に心当たりが見つかったってトコか?」
「多分、慧梨夏とリンちゃん経由かなぁと」
「ホント、世間って狭いよな」
「思います」

 刺身をつまみながら、しみじみと。世間っていうモノは本当に、広いようで狭かったりする。特に、俺みたくひとつのエリアから出ないで生きてきた人間にとっては。これがタカシとかハナちゃんみたく遠いところから出てきてるんだったらまた話は別だったんだろうけど。

「一度向島を離れてみる事も必要だったのかなとは思うんですけどね」
「でもお前安定志向だろ?」
「そうですけど。姉弟揃って同エリア内で一人暮らしなんかして、今ですらやりたい放題させてもらってるんでこれ以上のワガママは言えないですけど、仕事の上だったら遠くに飛ばされようとも別にいいかなとも思いますし」
「お前、4年になったらやっぱり実家に戻んの?」
「その予定です。姉ちゃんも4年でアパート引き払ってますし。単位もあとはゼミと卒論だけなんで特に今のマンションに住み続ける理由はないんですよ」
「でも姉ちゃんってニコラスゼミだろ、あそこのゼミ、よくゼミ室泊してるみたいだったけど」
「まあ、俺は文系なんで、特別な研究があるとかそういうんじゃないですし」

 先輩のグラスの中でゆらゆら揺れる氷が音を立て、寂しくなるな、とぽつり。

「サークルにもそうそう顔も出せなくなるしな」
「そうですね、如何せん時代が時代なんで、就活もどうなるかわかりませんし。早く終わったらたまには見に行きたいなとは思ってますけど」
「お前がいなくなったらミキサー陣が寂しがるな」
「とは言え俺はもう引退してますし、アイツらならもう俺がいなくても大丈夫ですよ。それだけの事を教えてきたつもりです」

 あんまり上がでしゃばりすぎるのもどうかと思いますし、とウーロン茶のグラスを傾ける。先輩はそれに対し、俺も引退したての頃はそう思ってたし、今のお前と同じことを咲良と話してたよ、と笑った。
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