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□Everything is your guitar.
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「俺の部屋? うんいいよ、1週間前までに言ってくれれば」

 確かあれは高木と話すようになったばかりの頃。まだアイツが俺の事を「中津川クン」って呼んでた時代の話だ。何がきっかけだったかは忘れたけど、ひょんなことからアイツの部屋に行きたい!とかそんな感じの話になったときのことだ。
 今だったらどうして人を部屋に呼ぶのに1週間前までに予告がいるのかその理由も納得なんだけど、その当時はその1週間っていう期間が謎でしょうがなかったっけか。ひょっとしてコイツもいっぱしの男、やましいモンでも隠すのかとか思ったけど。


「おじゃましまーす! おおーっ、キレイにしてんじゃん!」
「1週間かけてすごい掃除したんだよ。ちゃんと掃除機もかけたし」
「へぇ〜、お前いいトコ住んでんじゃん、マンションオートロックだし、さてはボンボンか!?」
「いや、ボンボンではないと思うけど」
「家賃いくらよ」
「えっと、5万8千円かな、水道代は定額で」

 キレイに掃除された部屋を進んでいくと、俺の目に飛び込んできたのは壁に立てかけられたアコースティックギターのケース。自分もギターを触るだけに、これには食いつかざるを得ないって感じで。

「あっ、ギターじゃん! お前ギター弾くの!?」
「上手くはないけどね。ちょっと触る程度」
「へぇー、何か意外だな。新発見。譜面とかあんの?」
「あ、その横の棚の下の開きの中」
「ドッグイヤーはっけーん、おっ、今この曲練習してんだ?」
「その曲、始めたばっかだし難しくてなかなか弾けないけどね」

 その曲の譜面をちらちらと見てやると、うん、これくらいなら弾けそうだと判断してギターケースを開く。実家にいた頃に買って、こっちに来るときには何よりもまず先に荷物にしたというそれを、感覚を掴むように握る。

「弾けそう?」
「多分」

 楽器を弾くことに対する防音対策も十分ではないだろうマンションの一室で奏でるギター。目は譜面を追いながら、手はここだという位置を探りながら。とりあえずはワンコーラス分のデモンストレーション。

「凄いね中津川クン、」
「ま、こんなモンだべ。つーか、俺のコトを名字で呼ぶヤツなんてほとんどいないっていう」
「って?」
「だーかーら、名前で呼べっつってんだよ、このニブチンが」
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