03

□スリーインワン
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「あ、飯食う?」
「聞こえた?」
「バッチリ。あ、今冷蔵庫の中身ちょっと見てみるから」

 急に鳴った腹の虫の音を拾われ、変に気遣わせてしまったのは申し訳ないと思う。スタジオでの作業中に果林先輩たちが差し入れてくれたスナック菓子なんかをちょいちょいつまんではいたけれど、それくらいじゃ満腹にはならない。

「あっちゃー、冷蔵庫の中身が見事にない。参ったな、冷や飯と卵と食パンくらいしか」
「え、食パン冷蔵庫に入れてるの?」
「いや、食パンは冷蔵庫の外だけど」
「あ、俺はそれでも全然大丈夫だよ。スタジオでもつまんでたし」
「でもあそこにあった食いモンほとんど千葉ちゃんに食われたじゃん」
「まあ、元々果林先輩が差し入れてくれたものだしね」
「つーか俺夜は普段サークルの後かバイトの後だから外で食う習慣ついてんじゃん? だから家にほとんど食料ねぇんだ」
「でも、冷や飯と卵があれば卵かけご飯とか簡単なチャーハンくらいなら作れるよ」

 ――と、俺が台所に立って調理をする流れになってしまっているのは何故だろう。

「あ、よく見たらタマネギも転がってた」
「使っていい?」
「おう」

 ほら、お前を泊めるとかまさかの展開じゃん?とタマネギの皮を剥いて渡してくれた鵠さんは、お前って何かちゃんと生活してそうじゃんと夕飯の調理を投げた理由を話してくれる。いや、ちゃんと生活は出来てないんだけどな。「一応自炊はするけど」といつか話したことが彼の中に残っていたのかもしれない。
 サークルのない日は家でご飯を食べるけど、コンビニ飯のときもあればエイジに作ってもらうときもある。MBCC2年の間ではずぼらのイメージで確定してしまったみたいだから、言われ慣れない「ちゃんと生活してそう」というその言葉があんまりピンとこなかったけど。

 みじん切りにしたタマネギを軽く炒めて、冷や飯に溶き卵。フライパンの上でこれらの材料が混ざり合っていく。塩コショウに粉末のだしの素。ネギなんかがあればもっとよかったけど、これでも一応食べられるものにはなっているだろう。さっそく一口味見をして、

「うん、」
「出来たか?」
「一応食べられるとは思うけど、味はあんまり期待しないで」
「大丈夫だ、男の料理に最初から期待なんてしてねぇよ!」

 とりあえず腹だけ膨れりゃ問題ねーじゃんと皿にチャーハンを盛り付けて部屋に運ぶその背中の後につき、立ち上る湯気を挟んで少し遅めの夕飯だ。しかし、人にご飯を振舞うのはひょっとすると初めてかもしれない。あれ、エイジにご飯作ったことってあったかな?
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