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□スリーインワン
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「お、美味いじゃん。塩コショウの具合とか結構いい感じだし」
「よかった、」
「写真撮って明日安曇野に自慢しよ、高木のチャーハン。絶対食いついてくるし」

 ピローン、と携帯カメラのシャッターが切られる音がする。被写体のチャーハンは特別美味しそうというワケでもない。自慢しても食いついてこないと思うけどなぁ。

「明日の朝はテキトーに食パンに目玉焼きでも焼いときゃOKだな」
「そう言えば鵠さんさ、」
「ん?」
「さっきこれ作ってるとき、台所に黒いトースターあったよね、あれ、コーヒーメーカーと一体化してるの?」

 そう、俺がチャーハンを作りながら密かに気になっていたこと。それは、電子レンジの上に置かれた黒いトースター。少し小さめのトースター部分の横にはコーヒーメーカーがくっついている。そして、丸い皿と思しきプレートが上の部分についていて、どうやら取り外しも可能なようだ。この丸い皿の用途はわからなかったけど、トースターにコーヒーメーカーがついているというのはとても画期的で。

「ああ、結構いいだろ。あれ、上の皿でトースター焼きながら目玉焼きも焼けるんだぜ」
「すごいね! 高かったんじゃない?」
「いや、4000円だったんだって。結構お手頃じゃね?」
「え、それどこに売ってたの!?」
「去年先輩に連れてってもらった雑貨屋にあったんだって。見た瞬間これだ!って思ってさ。やっぱ車だ。遠いトコでもいけるし」

 俺は住んでいるところが地下鉄の駅にも程近い町の中だから自転車があればそれほど生活には困らないけど、やっぱり大きな買い物をしようと思ったら車は必要不可欠だなって思う。でもまだ免許も持ってないから大きな買い物は諦めるか、車を持ってるハナちゃんとかに頼むしかない。

「鵠さん免許は持ってないの?」
「俺? 一応車の免許は持ってっけど、車がないじゃん? だから原付で生活してんだけど」
「あ、そっか」
「当時はこの辺の地理もよくわかんなかったし、知ってる人に連れてってもらうのがいいだろ。それに、先輩道とかにも詳しくて地図まで描いてくれたんだ」

 そう言って引き出しから取り出したのはリングノートから無造作にちぎられた1枚の紙切れ。大学を基準点としたこの近辺の地図が描かれている。どこで警察の待ち伏せが多いとか、どこのスーパーで何曜日に特売とか、生活に役立つプチ情報まで入ったそれはもう、親切極まりない地図だ。

「で、この地図くれた週の週末かな? 先輩の車でこの辺のツアーやって。百聞は一見にしかずだとか何とか言って」
「へぇ、楽しそうだね」
「実際楽しかったぜ」
「それ、どんな風なツアーだったの?」
「ああ、あれは去年の今頃だったかな――…」
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