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□ウワサのあのコのシルエット
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 これからどうなるんだろうという不安や戸惑い。いや、奥村先輩とペアを組めるのは光栄であるけれども。すると、ふわりと香るコーヒーの香り。振り返るとそこには高崎先輩。手には甘い缶コーヒー。

「高木、」
「先輩」
「その顔見る限りじゃ俺の言いたいコト、わかったみてぇだな」
「初めて他校の人と組む番組で奥村先輩は正直ハードルが高すぎますよ」
「バカ言え、そうそう他校の2コ上と組む機会なんてねぇんだ、楽しみゃいいじゃねーかよ」
「楽しむ余裕なんてないですよ」
「つーか、お前は普段誰を相手に練習してんだ?」
「……高崎先輩、です」
「俺相手に練習してんだ、菜月と組むぐらいどーってこたねぇよ。普段通りやりゃいーんだ、普段通りやりゃ」

 単純に比較出来ねぇけど技術だけだったら俺の方が上手いくらいだ、と言いながら席につく先輩に何となく救われた気がして。中津川くんは高崎先輩に呆れてるけど、気持ちが少し楽になったのは事実。そうだ、いつも練習させてもらってる高崎先輩だって向島エリアの大学放送界に名を轟かせるアナウンサーじゃないか。

「つーかあの人どこからそんな自信が湧いてくんのやら。なあ高木?」
「ん、でも高崎先輩は実際すごいし」
「タカシ、高ピーの言う通りだよ。普段通りやればいいんだよ」
「伊東先輩」

 どうやらまだ不安そうに見えたのか、伊東先輩が俺の元にやってきて声をかけてくれる。伊東先輩は初めてMBCCを見学したときから憧れの先輩だけあって、普段通りやればいいというその言葉が純粋に嬉しくて。

「うん、俺が言うのもおかしいけど、技術だけだったら高ピーの方が上手いっていうのは強ち間違ってもいないんだよ」
「えっ、カズ先輩それマジすか!?」
「えー、それしょぼんですー! 菜月先輩の方が光り輝いてるのにー!」
「お前らそれは俺にケンカ売ってんのか?」

 後ろで中津川くんとハナちゃんの頭にゲンコツが降ったところで伊東先輩の話が続く。

「高ピーを技術タイプとするなら、なっちさんは雰囲気タイプのアナウンサーだからね。まあ、もちろん2人とも技術と雰囲気を兼ね備えてはいるけど」
「つまり、人を惹き付ける力、ですか」
「そういうこと。なっちさんのトークには図らずとも人を惹き付ける力がある。なっちさんが発生源のその渦に、リスナーもミキサーも、いつの間にかみんな巻き込まれてるんだ」
「すごいです…!」
「トークの技術は身に付けることは出来ても、こればっかりは本当にどうにも出来ないからね。だから、技術と雰囲気の比率を高ピーとなっちさん、それぞれ表すと――…」
「俺が7:3、菜月が2:8ってトコだろ」
「そんなモンだね、ちょっと大袈裟だけど。それに、ダブルトークなら高ピーはタテでなっちさんはヨコ。そもそも単純に比較するのが難しいんだよね」
「タテ?」
「あ、その辺は合宿で勉強してきて」

 つまり、今の話をまとめると「十人十色」。
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