03

□COLORS
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「雅弘、耳、いい具合に開いたね」
「おかげ様で」
「でも、いいのかー? こんな時期に。内申に響いても知らないよ?」

 やっぱり姉弟だ。ピアスの穴に関して言うことが全く同じ。

「ホール完成するの、楽しみだね!」

 デートは専ら遠い街。地元や美弥子の高校付近は歩けない。周り中、誰も知らない人である必要がある。
 何かいけないことをしているというワケではない。ただ、俺たちの「関係」が近過ぎるがために勝手に後ろめたくなっている、それだけ。

「で、今日のことは伊東には何て言ってきたんだ?」
「部活の後、友達と映画見てくるって。カズもすっかり信じ込んでた」
「ホントアイツ、騙しやすいな」
「雅弘もカズ騙してきたの?」
「ああ、単に今日は無理って前々から刷り込んでただけだけど」

 繋いだ手。冷静を装うけど、やっぱりまだ慣れない。そんな俺の緊張を引き裂くのが、携帯の着信音。

「あ、メールだ」
「・・・。」
「ゴメン、電源切っとくね」
「ならいいけど」

 携帯が鳴ったことぐらいで不機嫌になったのがバレるなんて、やっぱり俺もまだまだガキだと思う。まあ、実際ガキなんだけど。たまに「学年の割に落ち着いてる」って言われるけど、それは一緒にいるのが伊東だからそう見えるだけであって、実際俺もバカバカしいことで騒いだりする15歳だ。

「そう言えば雅弘、ホール開けたのはいいんだけど、どんなピアスするかとか、考えてるの?」
「うん、一応」
「それってどんなの? アタシにだけ教えてよ」
「真っ赤なヤツ。他に何の飾りも無い、それだけの」
「赤かー…うん、いいと思う。雅弘肌も白いし、髪も真っ黒だし映えると思うよ。あ、髪染めないでしょ?」
「それはやらない。俺絶対茶髪とか似合わないし、興味もない」

 ごてごて飾り付けることに興味があるというワケでは無い。何をしてもダメなときはダメ、いいときはいい。それなら俺は何もしなくてもいいとすら思う。

「でも、赤にした理由って? まあ、雅弘が黒の次に赤が好きなのは知ってるけど」
「それもあるけど、一番の理由は……その、似合うって言われたら、その言葉に従うのも悪くないかな、と思って」
「アタシの?」
「まあ…そういうこと」

 すると、髪をぐしゃぐしゃっとされる。ああ、きっと頭を撫でられたんだ。そうわかるまでに少しの時間が要るほど荒っぽい撫で方。

「アタシが、雅弘には赤が似合うって言ったことの意味、わかる?」
「……それ、さっき言わなかった?」
「ううん、そういう肌とか髪の色とか…見た目の問題じゃなくて、内面の問題」
「内面?」
「うん。パッと見クールだし、どこかの国の王子様みたいなのにさ。中身を知ってたら王子なんて全然思えないしさ」
「王子って。俺そんなに高貴な血は流れてない」
「うん、知ってる。表面温度は低そうなのに中は物凄く熱いんだもん。揺るがない信念の黒に、炎のように燃える赤。上等じゃない? だから、雅弘の好きな色の組み合わせは雅弘そのものを表してる」

 まあ、静かに激しく燃える炎っていう意味では青い炎っていうのが正しいかもしれないけど、雅弘に青は似合わないからね、と美弥子は笑う。それこそ眩しい、太陽のような笑顔。国語が得意とは言え俺に語彙はない。だから、この言葉がどんなにありふれた言葉であろうとも、こう表現するしか出来ないんだ。

「雅弘は、太陽っていうより黒点」
「は?」

 俺がその言葉の本当の意味がわかるようになるにはまだまだ時間が要るな、と思った。黒点が何かぐらいは知ってる、受験生やってりゃ理科でやる。俺が考えてるその横で美弥子は笑いながら、親たちが言っていたという言葉を俺の左耳に投げかける。伊東が太陽で、俺は月。そんな例えがされてるけど、親なのになかなか見えてない部分はあるんだね、と。

「まあ、つまりだ。アタシが言った言葉の意味はそういうこと」
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