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□COLORS
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 4月。無事に星港高校に入学して、制服のポケットには黒と赤で配色された真新しい携帯。そして、左耳には真っ赤なピアス。

「あー、俺4組。お前は?」
「5組だな」
「今まで9年間ずっとクラス一緒だったのになー」
「そうだな」

 点数が少し足りないと言われていた伊東も無事に合格。ヤツの携帯は最新型。ネイビーのカメラ付き。
 生徒玄関に張り出されたクラス掲示の前でしばらく立ち止まって、同じ中学のヤツがいるかどうか確認したりしていると、ふわり立ち込める女の子の気配。

「あのー、ちょっと下の方、見ていいですか?」
「あっ、スイマセンっ!」

 髪が肩下ぐらいまである女の子。どうやら俺たちが邪魔で自分の名前が見えなかったらしく、彼女が見たい部分をちょうど塞いでいた伊東は慌てて掲示の前から避ける。

「いったぁッ!」

 それと同時に響く悲鳴。それも女の子のもの。だけど、掲示を見てる女の子とは別の。どうやら、その子のために慌てて避けた伊東に足を踏まれたようだった。

「すっ、スイマセン大丈夫ですか?」
「あ、ゴメンなさい大丈夫です! それじゃ!」

 伊東に足を踏まれた女の子は、クラス掲示を確認することもなくパタパタと校舎の中に入っていく。

「伊東、あの子クラス見れてないんじゃないか?」
「あっ、そうかも! あ〜…入学早々やらかしちゃったな〜…」
「あの子の中で、入学早々足を踏まれたことが笑い話になるか恨み話になるか、楽しみだな」

 とか言っていたら、その子が戻ってくる。伊東に目で訴えると、恐る恐るその子に話しかけにいく。

「……あの、大丈夫ですか?」
「何か焦っちゃって、慌てて校舎に入ったらクラス見てないコトに気付いちゃって」
「ひょっとして、足踏んじゃった以外に俺、何かやらかしちゃいました?」
「いえっ、ただ、うち…人見知りで」
「あ、俺もです」
「「あはは……」」

 しかし人見知り同士の会話って、どうしてこうも尻すぼみになっていくのやら。まあ、見ていて楽しいけど。

「あの、クラス掲示!」
「そうでした。う〜ん……」

 1組から順に名簿を追っていく彼女の目を、俺らも2人して追っていく。その目の動きが止まったのは、伊東と同じ4組の、下の方。

「あ、4組だ」
「あれっ、4組ってお前」
「あのっ、俺も4組でっ、」
「それじゃあ、これからよろしくお願いしますね」
「こっ、こちらこそっ」

 互いに名前も名乗らずに別れた彼女の後ろ姿をぽけーっと追っている伊東の目の前で手をひらひらとさせてやるものの、こっちの世界に帰ってくる気配はない。ただ、俺は何となく予感がしていた。伊東が彼女の足を踏んだのは笑い話の方になるんじゃないか、って。

「よし、伊東。俺らも行くぞ」
「おっ、おう」

 校舎に入るといろんな人がいて、中学では割と珍しかったピアスなんかも結構な割合で開いてる人がいる。それでもやっぱり男で開いているのは稀だけど、いないというほどでもなく、俺もそんなに浮いていないみたいで安心したのは言うまでもない。さすが高校、といったところか。
 携帯のメモリの0番から2番は家の電話番号と、両親の番号。3番は伊東、4番には美弥子の番号が登録されている。携帯を買ってもらったことで家の電話の子機を抱え込むことはなくなったけど、携帯の電話代が気になっておちおち電話も出来なくなったのが悩み。まあ、2軒隣だからすぐ会えるだろって言われたらそれまでなんだけど。

「はぁっ……」
「お前まだ気にしてんの」
「だって、」
「あの子いい子そうだし、足踏んだのなんてそんなに気にしなくていいんじゃないか?」
「まあなー、でも出会い方が最悪って言うかー……」
「まさかお前、」
「ちょっ、そーゆーんじゃないっ! これからの高校生活における交友関係に対する影響をケネンしていたところでっ!」

 やっぱコイツ、こういうの下手だ。知ってたけど。
 でも、国語が苦手な伊東から「懸念」なんて単語が出てくる辺り、よっぽど動揺しているのは間違いなさそうだ。まあ、意味をわかっているのかってのはさておいて、だ。
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