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□奥村菜月の一存
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「……ダメだな」
「・・・。」
「圭斗、モニター用紙」
「菜月さん、あんまりボロクソに書いてやるなよ?」
「わかってる。うちが言いたいのは一言だけだ」

 トラック1を聞き終えた菜月先輩が、圭斗先輩からモニター用紙を受け取り、みんなの意見を聞く前にさらさらっと自分の言いたい「一言」を書いてしまう。
 そのまま菜月先輩を書記に、このトラックに対する意見や感想などをみんなで発表し合うけど、出てくるのはもちろんここがよかった、というようなプラス評価のみ。

「菜月、最初に何て書いたんだ?」
「『無難すぎて面白くない』って書いてやった。3年ペアがそれなりの番組を作れるのは当然っちゃあ当然だろう」
「まあ、そう言えなくは無いけど」
「技術に問題はないし、ダメ出しするところを探す方が難しい。だけど、何て言うか聞いててワクワク感が圧倒的に足りないって言うか」

 これをどこかで聞いたセリフを借りて言えば、「ただの番組には興味ありません」と言ったところだろうか。確かに、上手いと言えば圧倒的に上手いけれど、あくまで基本に忠実と言うか。
 菜月先輩に言わせれば、お前らが組んでる番組だったらもっとぶっ飛んだことのひとつやふたつ出来ただろう、ということらしい。

「菜月さん、トラック2聞く?」
「ああ。次は誰だ?」
「えっとね、アナが果林で、ミキが高木君ていう1年生の子」
「ふーん、1・2年ペアか。よし、聞こうか?」

 トラック2に設定して、再び押す再生ボタン。こちらも何の変哲のない番組のように聞こえるけど、ただ普通の30分番組にしてはあまり見かけない構成の仕方をしている。構成の基本を根底からぶち壊していると言うか、BACK TO THE BASICなんてクソ食らえと言わんばかりに。そして、曲に入ると同時にその時点での感想がサークル室に飛び交う。

「ふーん……ノサカ、」
「はい?」
「今の曲のイントロ、何分ぐらいあった? 結構長かっただろ」
「えーっと……ざっと1分半以上はありましたね」
「1分半以上か……」
「普通こういう番組では使わない長さですね、イントロ」
「なるほど…? 計算されてるな、このディスク」

 トラック2。果林と1年生の子の番組を聴く菜月先輩の表情は、さっきよりも明らかにワクワクしているような感じだ。技術的にはさっきの3年生ペアの番組の方がキレイなのに。少し荒削りなこの番組に菜月先輩は何を感じているのだろう。
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