03

□奥村菜月の一存
3ページ/12ページ

「さて、それじゃあこの番組についての感想を」

 さっきと同じようにこの番組についての感想や意見を言い合う。今回はさっきよりもダメ出し成分が多めだ。ただ、意見が出尽くしたところで菜月先輩がまたさっきと同じように黙々と自分の感想をモニター用紙に書き込んでいる。

「ここから先の20分はボーナストラックだから、垂れ流しにしといて」
「はい」

 言われた通りディスクを垂れ流しにして、俺も自分の本来の席に戻って気になっていたことを潰す。

「菜月先輩、」
「ん?」
「あの、先ほどチラッとおっしゃられた、このディスクが計算されている、というのはどういうことなんでしょう?」
「あくまでうちの推論に過ぎないが……果林と1年生ミキサーの番組は、結構奇抜な構成をしていたのはわかったな?」
「はい」
「その前の高崎と伊東の番組は基本に忠実な面白みもへったくれもない番組だったけど、すべてはトラック2を引き立てるためだ」
「なるほど」
「それ以前にあのトラック2自体もトークタイムやミキシングが計算されつくしてる。それこそお前が普段やってる、秒単位の計算をな」

 このままだとうちとお前なんてあっという間に追い越されるな、と菜月先輩は笑った。ただ、それはとてもワクワクしているようにもとれたワケで。
 逆に言えば悪い意味でも引き立て役になっているかもしれないが、それもまた後輩を実戦で育てる城戸女史イズムが染み付いた今の3年たちには本望だろう、と。

「それと、M3のイントロ秒数はどうして聞かれたんですか?」
「3分のトークのうち、半分の1分半を次にかける曲のイントロをBGMにしてる。しかも、話の転換点で上手くBGMがクロスフェードで切り替わってたんだ」
「あ、そう言われてみれば」
「やろうとしてそう簡単に出来ることじゃない」

 そう言った瞬間、本当に一瞬菜月先輩の眼光が鋭く光って、この場の空気が固まった気がした。それも本当に一瞬。

「何度録り直してるかは知らないがあくまで緑ヶ丘だ、そんなまどろっこしいことはしてないだろう。アナとミキの息がピッタリだ」
「そうですね」
「それと、クロスフェードなんてあんまり使わないだろお前は」
「無難にカットインばかりですね。フェードアウトからすぱっと入れた方が楽ですし」

 次はどんなことをしでかしてくれるだろうって、楽しみで仕方なかったよ。そう言って先輩は笑う。きっと、モニター用紙にもそのようなことが書かれているのだろう。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ