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□ハイリスク・ファクター
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 俺が定例会を厄介だと思うのにはそれなりの理由がある。そのうちのひとつは会議場のビルだ。
 奴らは洒落たビルの6階にある中会議室を借りて最低月に一度会議をしているが、そこに辿り着くまでにはガラス張りのエレベーターに乗らなくてはいけない。
 あまり人には言わないが、俺は高所恐怖症だ。2階の窓から下を覗き込むのですら無理なのに6階? ふざけてる。

 そのふざけたセンスのエレベーターに乗り、高さを意識しないようにして6階までの階数を数えていく。ワンフロア上がるたびに、全身の毛が抜け落ちそうなくらいに体が震える。
 それなら階数表示を見なければいいだけの話だけど、階数表示をじっと見ていないと、視界には星港の夜景が飛び込んでくる。死ぬにはまだ早いが、死にそうになる。
 目を閉じてもエレベーター特有の重力でいろいろなことを意識して、目蓋の裏の闇に飲み込まれてしまいそうだ。ああ、怖い。


『6階です』

 機械音に救われた瞬間だ。希望の扉が開き、足早にエレベーターから降りて中会議室に向かう。
 前述の理由でこのビルにはあまり来たことがないから、中会議室を探すのにもひと苦労だ。6階まで上るべき用事もあったが、俺は人に行かせて下で待つパターンを作り出していたから。

 重く閉ざされた部屋の扉。中会議室と書かれた札の下には会議中の文字。うん、ここで間違いないだろう。
 そろーっと会議室の扉を押し開けると、そこには定例会の面々…と言うよりは、定例会三役の皆様。

「あ、石川クンだー」
「トオルー! お前意外といいヤツだな、マジで来てくれるとか!」

 俺の登場にテンションが上がる両サイド、委員長の伊東一徳と副議長の加賀郷音。
 伊東に対しては、お前が呼んだクセに意外とか言うなと言ってやりたいけど、言ったら負けな気がするからやめておいた。
 興奮気味の両サイドの2人に対して、冷静沈着なのが向島インターフェイス放送委員会を束ねる議長・松岡圭斗。

「石川君、来てくれてありがとう」
「いや、大した距離じゃない。そう言えば、美奈がよろしく言っといてって」
「ああ。美奈はどうしてる?」
「まあ、相変わらずだ。奥村さんは?」
「菜月さんも、相変わらずだよ」

 互いの大学の、どうしているか少し気になる相手のことを聞きながらもどこか探り探り、相手がどう出るかを窺いつつだ。

 俺が定例会を厄介だと思うもうひとつの理由は、この議長だ。何を隠そう、俺は松岡君が苦手だ。恐らく、彼も俺のことをそんなに良くは思っていないだろう。
 とは言え、彼のことが嫌いなワケじゃない。ただちょっと、性格が合わないだけなんだろうと思う。話をすれば、会話はそれなりに成立するし。

「とりあえず、適当なところに座ってもらって」
「……お邪魔します」

 同じ議長でも、対策時代の奥村さんとはまた雰囲気が異なる。当時は2年で学年も違うし、単純に比較は出来ないけど。
 奥村さんが当時から「圭斗には有無を言わせない雰囲気がある」と言っていたのはわかる気がする。
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