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□とある金曜日のウタ
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 うちは、授業に関しては遅刻するくらいなら欠席を選ぶタイプだ。だから、間に合わなかった2限は捨てることに決めた。大体、あの場面で声さえかけられなければ完璧に間に合う計画だったんだ、それなのに。ただでさえギリギリなんだ、うちの出席数を返せと言いたい。

 仕方なくぷらぷら座った白いベンチ。手の平の中には170円区間の切符。ちなみに大学までは220円区間。こうなったら誰が大人しく大学になんか行ってやるもんか。ウインドウショッピングをするためにもっと街に出てやろうじゃないか。
 ヘッドホンから1曲リピートで流しているのは今日の朝ダウンロードしたばかりの配信限定曲。自分の好きなアーティストがそうやって配信限定で曲を出していたことを1週間以上経って初めて知ったのはショックだったが、曲の良さでそれは吹っ飛んだ。

 夜の間に降っていたらしい雨のおかげで左手の荷物になった傘は、行き先なくただぷらんぷらん空を斬る。
 少し高い場所にある駅のホームから、この小さな町を眺める、それもまた乙じゃないか。少し離れたところには同じように走る別路線の高架があって、今もちょうど電車が走っていった。

 ちろりちろりちろりろん、と音楽が鳴って、ホームに電車が近付くことを告げる。昔はよく飛び込んでみたい、とか思ってたっけか。それをほぼ初対面に近かった当時の圭斗に言ったらドン引きされた記憶がある。
 いいじゃないか、雨上がりで澄んだ空気の6分晴れの朝に、いい曲を聴きながら死ねるのなら。過去も未来もどうでもいいと、そう思っていた当時のうち。今も月1くらいで来る憂鬱期はあるけど、あの当時はその憂鬱期に終わりがないんじゃないかって思ってた。
 そういった意味では、お前もあの頃に比べれば大分落ち着いたな、と昔話の度に圭斗はそう言って、うちはそれに歳を取ったよ、と返す。ほんのごくたまに交わされるうちと圭斗のゆったりとした会話と空気感は心地いい。

 やってきた電車に乗り込む。たった一駅の旅だ。向かいに座っているのは明らかに高校生。制服でわかる。ったく、高校生がこんな時間にどうしてこんな場所でうろうろしているのにお咎めなしなのか。それとも自由登校か? どっちでもいい。さっきの出来事があったからか、怒りの矛先は目の前の高校生に。
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