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□プチプチディベート
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「おはようございまーす! あっ、菜月先輩プチプチですか!?」
「おはよう奈々〜! そうそう、プチプチ」

 それまでは無表情で気泡緩衝材を潰していた菜月だったが、サークル室に奈々の声が響くと笑顔が浮かぶ。律以外の2年生に対してはかなり辛口の菜月も、唯一女子の後輩である奈々にだけは甘い。野坂と神崎はやっと救世主が来た、とほっと胸を撫で下ろす。

「これ潰すのめっちゃ楽しいですよねー、私も昨日姉ちゃんと一緒に潰してたんですよー!」
「奈々さ、これ、どうやって潰す派?」
「あー…私は姉ちゃんが雑巾で絞った余りを潰すだけなんで、ちょっとそれはー…」
「ああ、姉妹間の強弱関係が出てる感じで?」
「そうなんですよー、うちも雑巾絞りでスカーッとしたいですよ、もう」
「ね。ストレスは溜めないに限る」

 この会話に圭斗と野坂は、今のままでもサークルに出ている分では十分ストレスを発散出来ているはずだと感じたが、菜月本人的にはどうやらまだストレスが発散しきれていないらしい。そんなにストレスが溜まるならカルシウムでも取ったらどうかと言いたいが、とばっちりには遭いたくないという思いが彼らの口を閉ざしたままにさせる。

「なんだったら奈々、これ雑巾する?」
「そんな! 菜月先輩のプチプチを私が雑巾で一気に潰してしまうなんて……先輩どうぞッ!」
「いやいや、うちは奈々と喋ってればストレスはなくなるから、いいよ、潰して」
「では、失礼して……」

 菜月から受け取った気泡緩衝材のシートを手に、奈々は雑巾絞りの準備をする。ご丁寧に、着ている服の袖までまくって。

「いきますッ! ……やっ!」

 サークル室に響く気泡の割れる音。プチプチプチ、と雑巾絞りのように一気に潰されたそれは、気泡の数も少なくなって皺が増えている。そして、気泡を潰し終えた奈々の表情は実に晴れやかになっていく。

「菜月先輩ッ! すっきりしました! ありがとうございますッ!」
「こちらこそ。あ、残り潰していい?」
「あっ、なんかスイマセン後処理させちゃって」
「いやいや、今日のうちは1個ずつ潰す式だったから、気にしない」

 シートが菜月の手に戻り、室内には再び1つずつ気泡の割れる音。ただ、潰れていない気泡を探す作業が始まったために、先ほどまでよりはその頻度は低くなる。
 すっきりした様子の奈々に、菜月のストレスが軽減されたようで安堵した様子の野坂と神崎。そして、シートの気泡が少なくなったことで菜月がサークル活動に戻ってくるのが早くなるだろうと予測して満足げな圭斗。それまではどことなくピリピリとした空気だったサークル室にはそれぞれの思惑が交差し、穏やかな空気が流れ始めていた。
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