エコメモSS

□この酒飲みと言わないで
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「あー! タカティー!」

 耳がキンキンする。

 地下鉄の駅にある地下街の広場。そこは待ち合わせのメッカで、周りを見渡せば噴水の縁に座って携帯を眺めていたり音楽を聞いていたりする人がたくさんいる。
 今日は向島インターフェイス放送委員会の1・2年会。俺は高木と一緒に電車を乗り継いで集合場所に向かったんだけど、そこに着いた瞬間ビリビリと浴びせられた声はまるで波動。

「タカティおはよー!」
「あ、おはよ」
「うっせーよ奈々、地下で叫ぶなよ」
「あ、エージもおはよう!」
「忠告は無視か!」
「そう言うエージも挨拶無視!?」
「うっ」
「おはよー」
「お、おはよう……」

 向島大学の岡島奈々、そいつがこの波動の大元だ。見ての通りテンションの高い女子だ。大学同士が仲がいいこともあって俺らとも割と仲がいい。

「タカティおはよー!」
「おはよう」
「タカティだー、可愛い〜」
「あ、おはようございます……」

 しかし高木のこの人気は一体何なんだ? 俺が奈々と挨拶云々について話してた間に、他校の女子や先輩たちに絡まれまくっている。こないだまではそうでもなかったのに、急にだ。これには表情を見る限り高木本人も困惑しているようだ。

「それでは会場に移動しまーす」

 この飲み会の幹事である神崎さんの声が広場に響く。この声に、奈々がきょろきょろと周りを見渡し始める。

「どうした?」
「野坂先輩がまだ来てないみたい」
「幹事が向島だし、マーシーさんに関しては諦めてんじゃね?」
「ああ、十分あり得る……」
「高木! 行くぞ」
「待ってよエイジ!」

 神崎さんの後に続いて俺たち3人もてくてくと会場に向かって歩く。夜の街とは言っても大きな街では人通りもまだまだ多い。その中でIFの連中がぞろぞろと列を作っている光景はとても異質なものだ。ただ、当人たちはそんな風には思わないけど。
 俺たちの後ろにはヒロさんとりっちゃんさんがいて、マーシーさんの遅刻癖について討論を繰り広げている。俺と高木の間にいる奈々にも時々話が振られ、高木はこれを我関せずと言わんばかりに涼しい顔をして聞いている。

「向島の人も大変そうだね」
「何言ってんだ、お前だって俺相手の待ち合わせじゃ平気で遅刻して来るクセに」
「ワザとじゃないよ」
「ナニナニ、タカティも遅刻癖持ちなの? 迷惑かけるよ〜、うちの野坂さんなんかも〜う酷い酷い」
「いや、俺はこういった場では遅刻しないですけど……」
「そうやよこーた、ノサカとタカティを比べるとかかわいそうやよ。ノサカには誰も勝てんって。エージはどーなん? 待たせる方? 待たされる方?」
「俺は待たされる方っすよ、このずぼらがいつも寝坊しますからね」
「へぇ、エージ時間に厳格なんやね」

 菜月先輩と気が合いそうやね、とニコニコふわふわしているヒロさんは間違いなく待たせる方だな。その証拠に、りっちゃんさんが苦笑いしながらこれだからうちの2年は…とため息をついている。

「それではここに皆さん入って行ってくださ〜い!」

 飲み会の会場の店に着き、奥の座敷に通される。各大学から総勢25人もいれば席を決めるためのクジなんか作ってられなくて、好きなように座っていく。

「ここ何の店なのかな?」
「でも、見る感じでは焼き鳥じゃね?」
「焼き鳥かあ、美味しそうだねエイジ」

 俺らのこの会話に、向島の2年の先輩たちが奈々に絡んでいる。

「焼き鳥だって奈々〜」
「奈々、家に帰ったらピー子ちゃんおるかどうか確認した方がいいんじゃない?」
「こーた先輩ヒロ先輩やめて下さいよー! ピー子ちゃんはお家で美味しいご飯を食べてふかふか羽毛ですやすや寝てますから」
「今頃羽も剥かれとるかもしれん」
「ピー子ちゃんが誰かの胃袋に……」

 向島2年の悪乗りに、辺りにはは黒いオーラが立ち込める。

「こーた先輩ヒロ先輩、これ以上ピー子ちゃんをネタにするなら……ぶち殺しますよ?」
「「スイマセンデシタ」」

 この光景に高木は俺にひっそりと耳打ちをする。怒ってるときの笑顔って逆に怖いよね、って。お前もそういうタイプっぽいけどな、とは敢えて言わない。そうこうしている間にコップとピッチャーが回ってくる。

「それじゃあ皆さんコップは届きましたねー? 最初はビールか烏龍茶ですのでご了承下さい。それでは皆様、乾杯の挨拶を僭越ながら向島大学の神崎がさせていただきます」
「面白くなかったら殺すぞ〜」
「ええっ!?」

 りっちゃんさんから神崎さんにムチャ振りが飛ぶ。これはひょっとすると……

「……そ、それでは皆さん本日はIF1・2年会にお集まりいただきありがとうございま」
「――かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」

 ほーら、やっぱりね。
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