エコメモSS

□COOL and COLD
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公式学年+1年

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 本格的なゼミ活動が始まって半年以上が経って、よく他のゼミ生に言われることがある。
 『鵠沼クンって、ゼミ内クールのツートップと仲いいけど、鵠沼クン熱血なのによく波長合うね?』

 クールのツートップ? 笑わせんなっつー話だよな。

 クールのツートップと言うのは無論、高木と安曇野のこと。コイツらが他のゼミ生にクールと言われるのは、前者は大人しくて物静か、後者は厳つい見た目と不必要に喋らないからだろう。
 だけど、実際高木はド天然だし、安曇野はとにかく自由だ。特に、安曇野が高木で遊んでるときのイキイキした顔と言ったら。2人とも、本来の姿がクールとは程遠いことを他の連中は知らない。
 高木は天然過ぎて見てると心配になってくるし、安曇野は自由すぎるから誰かがそれを止めてやらないといけない。すると、残りの俺が何故か俺がコイツらの保護者ポジションに落ち着いてしまったのだから仕方がない。


「あー…ヒマ。高木がいないと面白くない」
「確かにな」
「最近付き合いも悪いし、タイクツって言うか」
「だよな。しかも妙に神経削れてるみたいなのに事情を聞けば「大丈夫だよ」じゃん? 今日も寝てないって言ってたし」
「ナーニやってんだか」
「しかしアイツも大変だな、今は今で3年生のゼミに借り出されてるとか」

 今はゼミが終わり、4限の授業の真っ最中。いつもは3人で受けている授業も、今日は安曇野と2人。高木はヒゲ教授から「3年生のゼミに出ろ」と言われて、引き続きゼミ室に拘留されている。
 アイツが「4限がある」と言っても、俺たちに何とかしてもらえと言われて終わり。ったく、NOと言えない現代人の象徴じゃん?

「3年生のゼミって今何やってんの」
「え、制作した音声作品の発表と卒論を前提にした年末レポートの中間発表だろ?」
「それにどうして高木が出る必要があんの」
「さっきヒゲさんと高木が話してんのチラッと聞いちまったんだけどさ、アイツ先輩の作品の編集、全部やったらしいぜ? ほら、アイツ音声編集強いじゃん?」
「でもさ、それってダメじゃない? その先輩自分で作品作ってないってコトっしょ。え、もしかしてそれで神経削れてたとか?」

 安曇野が珍しく本当の意味で不機嫌だ。いつもなら「不機嫌っぽい」だけなのに、何もかもが普段とは違う。強いて言うならヒゲさんに話しかけられたときと同じ、近付くなオーラだけは普段通りだ。

「で、誰?」
「誰って?」
「高木のバカお人よしに付け込んで自分は楽してたの。え、千葉先輩じゃないよね?」
「いや、千葉ちゃんはそんな人じゃない」
「わかってる」
「ほら、ミムラさんって人いるじゃんな」
「ああ、アイツ?」

 うちのゼミは本当にいろんな人種がいる。ガチンコのオタクから俺みたいな体育会系、マスコミに興味あるヤツや、とにかくその他もろもろ。
 その中でも3年生のミムラさんという人はいい意味でも悪い意味でもとても目立つ人だ。パッと見は女の子らしくて可愛いけど、まあ、所謂重度のぶりっ子と言うか。正直俺は苦手なタイプだ。
 あのヒゲ教授すらも色仕掛けでどうにかしてしまうんだから恐ろしい女だと思う。「キラリンッ」っていう映像、音声エフェクトが地で似合ってしまうタイプと言えば想像はつきやすいだろうか。

「って言うかバカだし! 高木がバカなのは知ってたけどあそこまでバカだとは思わなかった!」
「確かになー、女に免疫がないとああまでなるか」
「どうせあの女の「え〜、私パソコンとか弱くってぇ〜、編集とか出来ないんだけどぉ〜、高木クン助けてくれるぅ〜?」みたいな涙目上目遣いに騙されたってコトでしょ?! あーもう自分で真似してて気持ち悪い!」

 ちなみに安曇野はゼミに入ったばかりの頃にあった2・3年合同バーベキューで、「安曇野さんってー、見た目怖いから「ゆいにゃん」って呼んでいい? せめて名前だけでも可愛くしたくってー」と言われてから、あの人を目の敵にしている。
 しかしこのままだと安曇野の怒りはいつまで経っても収まりそうにないと言うか。今が一応授業中だということを完全に失念しているだろう。

「まあ落ち着け安曇野、4限が終わったらあのバカに詳しいこと聞こう」

 怒り狂う安曇野を落ち着かせ、あのバカには「4限が終わったら第1学食に来い」とメールを送る。
 と言うか、安曇野はちょっと高木に執着しすぎじゃないかって思うのは俺だけか? まさかとは思うけど、今回の件に関して安曇野がミムラさんに嫉妬してるとすれば?
 まあいいか、それは聞いても仕方ないじゃん? 俺は直接関係ないとは言え、問題をややこしくしてどうする。

「ねえ鵠沼」
「ん?」
「腹立ったからアタシ寝る。プリントとノートよろしく」

 ったく、お前はお前でフリーダム過ぎんだよ。
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