エコメモSS

□36hours a day
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公式学年+1年

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「はい!? 俺が、オープンキャンパスのミキサー、ですか!?」
「もう決定事項だから」

 決定事項という一言で片付けられてしまったけれど、これはとんでもなく大きな舞台なんじゃないだろうか。
 緑ヶ丘大学のオープンキャンパスは夏の三連休を使って行われる大々的なイベントで、全国各地から受験生をはじめとした学生たちがやってくる。その来客数は3日で1万人を越えるとも言われている。
 俺は受験生時代に緑ヶ丘大学のオープンキャンパスには行ってないから、それがどんな感じで行われるのかは想像するしかなかったけど、どうやら佐藤ゼミはこのイベントでも大きな仕事をしているようで、2年生もスタッフとしての参加が義務付けられている。

「それじゃあ安曇野君、再生して」
「はーい」
「これが去年のオープンキャンパスね」

 暗くされたスタジオの、白い壁に映し出された映像はまさしく去年のオープンキャンパス。総合アナウンスコーナーとされたその場所で動いていたのが社会学部佐藤ゼミの学生だ。

「2年生の仕事は基本的に3年生が行うアナウンスの間のサブコーナーだね。それと機材搬入に記録係が主。サブコーナーはひと班につき1時間20分。体験講義の合間を埋めていく感じでね」

 先生が淡々とオープンキャンパスの仕事を解説していく。映像の中では、当時2年生の果林先輩がちょうど何かを喋っている場面が映し出されている。
 必ず学生が通るセンタービルのど真ん中にブースを構え、そこでアナウンスをする。しかも体験講義の集合場所にもなるその場所での番組って。これはかなり大掛かりな公開生放送だ。

「まあこれが3日間続くと思ってくれれば。心配しなくても全員が全員毎日出て来なくてもいいんだよ。出てきてもらわなきゃ困る人だっているけどね。ちゃんと学校から報酬も出るから、気合入れてやってちょうだいね」

 映像の再生が終わり、2年生はざわついた。
 ゼミでやってるお昼の番組でさえ今は3年生の担当で、自分たちの企画する番組と言うかコーナーと言うか。そんなものを初めて公の場で出す機会がまさかのオープンキャンパス。そしてオープンキャンパスなんだから求められるレベルはわかるよね?という先生からのプレッシャーもそれはもう半端じゃない。
 2年になったときに決められた班編成は面倒だという理由で崩すことなく、オープンキャンパスも同じ布陣で行くことになった。鵠さんや安曇野さんとは、どうやらここでも同じ班員として行動を共にすることになりそうだ。

「って言うか高木と同じ班になるとかこれ、呪われてるようなモンだし!」
「安曇野。高木だって好きで呪われてるワケじゃねーだろ、多分」
「えーっと、それはどういう解釈をすればいいのかな」

 まるで俺が疫病神か何かみたいな扱いだなぁ。まあ、呪われているような気がするっていうのは否定しないけど。

「だって高木と同じ班だったら絶対アタシらの班3日間出てこいって言われるし!」
「3日間出て来いと言われたとしても、それは俺個人のような気がするけどなぁ」
「それが杞憂に終わるといいけどな」

 そして、班ごとのミニコーナーはどうする?という班の本題に入ろうとしたときのことだった。

「ちょうどいいメンツが固まってるじゃない」
「あ、先生」

 このタイミングで先生が現れるとか、いい予感が全くしない。いや、俺はもう死刑宣告を受けているから問題はないんだけど。

「さっきも言ったけど高木君はミキサーで3日間固定。安曇野君、君には記録係として出てきてもらうよ」
「記録?」
「動画とか、デジカメの写真とか、いろいろあるでしょう。カメラマンとして出てきてね」
「はっはっは! 安曇野ざまあ!」
「笑ってるけど鵠沼君、君もね」
「え?」
「知っての通り、うちのゼミって文化系でしょ。夏場になってくると体育会系の子が重宝するんです。君も、ADとして3日間出てきてね。体力勝負だからね!」

 3人仲良く3日間出勤なら文句ないでしょう。先生は、そう言うだけ言って他の班の様子を見に行ってしまった。

「安曇野、前言撤回するわ」
「ナニを」
「やっぱコイツ疫病神かもしんねー」
「だから言ったし!」

 自分の班の番組の他に全体の仕事とか、そういったことをこなす自信なんてもちろんあるはずもなく。それでもこなしていかなくてはいけないのだろうけど。一気にこのオープンキャンパスに対する緊張感が増したと言うか。果たして、オープンキャンパスはどうなるのやら。
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