エコメモSS
□NO.2201〜3100
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■真面目な処方箋
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「おはようございまーす」
「……ます〜……」
「おはよう…? って言うか諏訪姉妹、何か喋り方が逆転してないか?」
かんなとあやめと言えば双子の姉妹で、はきはきと文章で喋るのが姉のかんな、考えていることがかんなとそう違わないからという理由でかんなの後に「です」とか「ます」と言うことで言葉の威力を二乗するのが妹のあやめ、という区別の仕方だった。
それがどうした。今じゃおはようございまーすとはきはきと挨拶してるのが妹のかんな、その後にしょぼくれた様子で「ます〜」とついてくるのが姉のかんなになってしまっている。と言うか2人揃うのも久しぶりに見た気がする。
「おい、かんな、どうした。具合が悪いなら無理して来ることもなかったんだぞ」
「越谷さん、かんなは萩さんと会えなさすぎてて死んでるんです」
「そっちか。まあ、学祭が終わったから裕貴も少しは楽になるだろうし。それより頼むぞ、仕事は山積みだぞ」
「はーい」
「うん、あやめはいい返事だ。かんな、来たからには仕事に集中しろよ」
「は〜い」
何かいろいろあって裕貴とかんなが付き合い始めてから5ヶ月が経った。あれよあれよと言う間に距離が縮んでいたし、付き合い始めてからもこれでもかと会いまくっていた。外でのデートもしているが、家に行く頻度も凄い。
ただ、何気に裕貴が就活だの文化会のあれこれだのバイトだの研修だの卒論だので忙しくなってくると、それまでの密度が嘘だったかのように会えなくなっているそうだ。で、かんなが死んでいると。禁断症状じゃないけど、そんなような感じか。
あやめの方はと言うと、それまではずっと一緒だったかんなと行動を別にするようになって活動的になった。作品により貪欲になり、バイト代を貯めて良い機材と125ccの原付を買った。ちなみに中型バイクの免許も取得している。
ちなみに、ここのバイトでもあやめはめきめきと実力を付けていることから10月から時給が50円上がった。インプットのためにいろいろ出歩いてるので時給が上がるのはありがたいです、と。やっぱそこに繋がるのかと呆れたのは言うまでもない。
俺はと言えば、諏訪姉妹の教育役という肩書きは外れた。それでもまあ一応先輩だから面倒を見てはいるけれど、教える内容も最初の頃みたく会社や現場の歩き方ではなく、一歩踏み込んだ内容になっている。
もう少しここでお世話になる予定だけど、就職も決まっているしいつまでバイトをしていようかということを考え始める時期にも来ている。卒研の都合もあるし、どういう入り方をするのかもまだ少し見えてこない。
「かんな、ボロボロ過ぎない?」
「頑張ってはいる、頑張ってはいるんだけど結果がついてこない!」
「まあでも、ここまで急にプツンと来たなら1回裕貴に会うっつーのが割と真面目に処方箋なんじゃないかって気がしてきた」
休憩時間、缶コーヒーを姉妹に差し入れ話を聞くだけ聞く。確かにかんなは頑張っている風には見える。だけど、不運も重なりなかなか成果が上がらない。その横ではあやめが着々と仕事を進めているのも焦りの原因だろう。
「でも、忙しいって聞いてるし」
「確かにアイツもアイツでバタバタしてるけど、お前のことを気にしてる素振りはあるとだけ言っとく。そこからどうするかはお前次第だぞ、かんな」
「えーと、私は家から追い出される覚悟を決めておけと」
「まあ、そういうことになりそうだったら適当に人数集めてうちで決起集会とかでもいいし」
「楽しそうです! かんな、早く萩さんに連絡する!」
あやめはバシバシと机を叩いてかんなを煽っている。かんなが腑抜けなのを心配しているようでもあるけど、「人数集めて決起集会」の方に食いついていたような気もするし、こっちはこっちで自由だと思う。
かんながメッセージを作っている脇で、俺は決起集会に誰をどのように召集するかを考える。まあ、俺の周りの顔を思い浮かべる限り、全員が共通の知り合いじゃなきゃいけないっつーことはなさそうだから適当でいいか。
「や、やったー! 越谷さーん! 返事が来ましたー!」
「おっ、よかったなかんな」
「越谷さん、決起集会ですよ。お肉はありますか?」
「肉か、肉なのか」
end.
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久々に諏訪姉妹を揃えてみたけど、喋り方が逆転していた模様。かんなの方に潤いが足りてないらしい、どうやら。
保護者のこっしーさん、そういや4年生だしバイトをいつまでやろうかなって考える時期か。就職も決まってるし、卒業も近付いてるね
諏訪姉妹はお肉が大好きなのだけど、決起集会に肉を求めるあやめよ。鍋にはお肉をたっぷり入れたいのね。
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