SSS

□ハクシュSS
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≪after party time 202≫

「伊東先輩、高崎先輩と武藤先輩ってそんなに仲が悪いんですか?」
「仲が悪いって言うか、互いに我が強いと言うか、折れないと言うか。意固地になっちゃうんだよね」
「なるほど」

 武藤先輩は本当に高崎先輩の部屋に行ってしまった。その手には、また変わった酒瓶。海外の銘柄であることには違いない。そして伊東先輩から語られるのは、俺もL先輩も知らないあの頃話。先輩たちが1年生の時のこと。

「俺たちが1年の時までは、結構プロ志向の人も多くて技術的指導も厳しかったんだよ。番組一つ作るのにしてもキューシートの段階からダメ出しが入ったりして」

 今でこそ結構インターフェイス自体の空気がそういう方向からだんだん軟化してきて、楽しく仲良くやりましょうという風潮に向いてきたとのこと。俺は今のそれしか知らないけど、2年生のL先輩はそういう空気が変わり始めた世代の学年だから、複雑な雰囲気はあったなあと振り返る。

「育ちゃんは天才型ミキサーだね。技術なんかもさらっと習得しちゃうし、ジングル素材もセンス抜群。ただ、番組となると結構相手を選ぶんだ。クセがあるからね」
「クセっていうのは」
「アナさんと衝突しやすいんだよ。で、1年の秋学期に高ピーと育ちゃんが昼放送でペアを組んだのかな」
「えっ、あの人たちが昼放を組んでたんすか!?」

 俺はまだ基本中の基本の構成しか組んだことはないし、作品出展でちょっと冒険してみようかと言われて果林先輩と一緒に考えている番組構成にしても、それといって意見の衝突はない。
 高崎先輩と武藤先輩はそれだけ激しい話し合いをしていたのかと考えると、やっぱりそれだけ自分のこだわりに対する意識が強いのかなあと思ったりもする。それだけ強い人がぶつかってしまえばこそ。

「毎週番組やる度にぶつかるよね」
「あの人たちの論争が毎週とか。カズ先輩、聞いてる方も体力使いません?」
「まあね。当時の高ピーは全部が全部自分も把握出来てなきゃ気が済まないって感じだったから、キューシートの内容とかBGMがそうなる根拠まで全部確認してたんだよね育ちゃんに。でも育ちゃんはそういうのを感覚でやっちゃうから、まあそういう細かいことを聞かれるのに嫌気が差して〜って感じ?」
「「なるほど……」」
「で、1ヶ月目くらいかな、ついに育ちゃんがキレちゃってね。マルチで勝手にやってろって」
「番組を放棄したんですか?」
「3回ボイコットしたんだ。で、その1回目は俺がピンチヒッターで入って、2回目と3回目は高ピーがアナミキ兼務のマルチでやって。その3回目が散々だったのかな。もうとんでもない放送事故。こりゃ大変だって、結局3年生の先輩に間に入ってもらって和解したんだけど、まだ微妙に遺恨はあって。それ以来高ピーと育ちゃんはペアを組んでないはずだよ」

 どっちも実力者だし、どっちの言いたいこともわかるんだけどね、と伊東先輩はノンアルコールカクテルを煽った。あの頃のことを思い出して、しみじみといった感じ。俺の今も、2年経てばあの頃話になるのだろうか。

「番組が絡まなかったら別にそこまで大変なことになるとかではないし。むしろお酒が絡むと仲がいいくらいだよ。今も下にケンカ売りに行くとか言ってた割に、戻って来ないっしょ? きっと今頃2人で楽しくやってるよ」
「どれだけ仲が悪く見えても、わからないものですね」
「そうだよタカシ。だから、お前とエージもそのうちめっちゃ仲良くなってるかもしれないよ」
「いや、中津川クンとは別にそーゆーんじゃないですけど。と言うか絡む機会もないですし」

 わかんないわかんない、と先輩たちは笑った。今はニガテな彼が、伊東先輩の言う通り「そのうちめっちゃ仲良くなってる」としたら……それはそれでビックリだ。するとハナちゃんか誰かにあの頃話としてこういう風に語られるのかな。


end.


(12/06/06〜12/10/13)
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