エコメモSS

□NO.501-600
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■テキストマネー大戦争

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「ターカシっ、何やってんの?」
「あ、伊東先輩。おはようございます。秋の履修が決まったので、教科書販売のリストに印を入れてたところなんですよ」
「ああ〜、そういう時期か。1年生はそういうトコの出費も大変だよね。俺らぐらいになると授業も少なくなるしいいんだけどさ」

 そう言いながら俺の向かいに陣取った伊東先輩が、履修表を覗き込んでくる。空きコマの少ない1年生らしい履修表だね、と笑いながら。慧梨夏の履修表も結構似た感じだったな、と苦笑いもひとつ。どうやら彼女さんは現時点での単位数がちょっと少なめらしい。

「そうなんですよね、教科書の出費がやっぱりちょっと響いてますね」
「そうだろ」

 それが理由で教科書の要らない授業を履修しようと思ったくらいには。いや、そんなことはしてないけど。

「こないだ果林先輩にその話をしたら、何冊かは譲ってもらえることになったんですけどそれでも少し厳しいですね、単価的な意味で」
「そっか、タカシと果林は学科が一緒か。譲り合えるっていうのは結構有利だね」
「伊東先輩は違うんですか?」
「MBCCの先輩になかなか経済の人っていなくてさ。他の知り合いにしてもそうだけど。だから基本的に全部買うことになるじゃんな、講義中ロクに使いもしないのに」

 伊東先輩の話を聞いていたら、何だかんだで俺は恵まれた環境なのかな、と思い始めてきた。
 まず、同じメディア文化学科に果林先輩がいるし、学科の違う高崎先輩も結構メディ文の授業を履修してるから話も通じる。
 それに対して伊東先輩は、なかなか経済学部の先輩だとか後輩だとかが見つからず、話の通じる人があまりいないんだとか。
 それでもたまにゼミの話を聞く限りでは、伊東先輩の経済学部での生活もそんなに悪い風にも感じないんだけどなあ。

「確かに教科書を買っても使わない人っていますよね」
「あと、自分の著書を買わせる人な」
「ああ、いますね」
「あーゆーのは、年にある程度決まった数売れないと重版にならないんだよ。だから買わせるんだって話を聞いたことがある」
「絶版阻止ですか」
「そーゆーコトだね。川端さんが言ってた。あ、うちのゼミの教授なんだけどさ」

 あまり聞いたことのなかった教科書に関する豆知識を手に入れたような気になって少しばかりのお得感。覚えておこう。

「まあ、よっぽど高い教科書が必要だけど節約したいなら密林さんで探すとかの手段もあるけどね」
「強硬手段ですね……」
「でもちゃんと買った方がそれだけマジメにやんなきゃって気にもなるし、サボり防止のためには学内の本屋で買うことをお勧めするよ。上から譲ってもらえる分には甘えていいと思うけどね」

 そして改めて引くマーカー。果林先輩から譲ってもらえる分については青ボールペンで丸を付けて。

「何か、いろんな話をありがとうございました」
「そんなタメになるようなコト話したっけ」
「いや、伊東先輩の学内での話が何か新鮮だなーと思って」
「ははっ、学部が違ったらサークルとかやってない限りよっぽど顔会わせることもないもんな」

 サークルの中ではあまり意識したことのなかった学部だけど、こうやって話を聞くとやっぱり新鮮で。今度エイジにも文学部ならではの話をいろいろ聞いてみたいなって思った。

 その前に、来る教科書出費の前に何を削るべきかを考えないと。


end.

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