エコメモSS

□NO.1001-1100
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■双子葉にあげる水

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 土曜夜、日付を跨ぐか跨がないかの時間帯。メール一通で呼び出してやれば、はーい何ですかとひょっこり出てくるのが果林のパターンだ。講習会明けで、バイトも入れていないと聞いていたからこそ。気になる部分の話を聞くためでもある。

「高ピー先輩が部屋に入れてくれるとか」
「ま、今日くらいはな」

 滅多に人を上げない部屋だ。果林はどこに座るか一瞬戸惑ったようだったが、下座と思わしきポジションを判断して適当に座り込んだ。おかまいなく、と一言添えて。

「初心者講習会はどうだった」
「なっち先輩様々です」
「あー、何か菜月が臨時講師になったんだっけか」

 話を聞いた感じでは、講習会本番よりもそれまでの方が辛く険しかった、と。対策委員に口を出していた影は、野坂への逆ギレメールを最後に今はとりあえず音沙汰なしとのこと。
 しゃしゃり出てくる上への対処は本当に面倒なことだ。短気な果林の怒りが爆発するのも時間の問題だった。果林は俺を講師にしたいようだったが、三井が俺の人格を否定して却下させたとか。
 三井曰く、俺は対策の方針を否定するようなことを言って講師を引き受けないそうだ。俺が講師やったとしても1年生にもキツい物の言い方をするだの何だの言いたい放題だったらしい。

「ホント、さっさと高ピー先輩にお願いしとけばよかったです。みんな高ピー先輩かなっち先輩がいいって言ってたんですよ」
「菜月がカバーしたんならプラマイゼロ――いや、プラスだろ」
「あの人が高ピー先輩の何を知ってんのかってコトですよ。直属の先輩ディスられて黙ってられるほどアタシは大人しくないです」
「言わしとけ。つかアイツ、もしかして自分が講師やりたかったんじゃねぇのか?」

 提げてきた袋から取り出したビールテイストの酒を一気に飲み干して、果林は過ぎたことですけどね、と自棄になっているようだった。どうやらまだまだ過ぎたことには出来ないらしい。振り返って見るその光景は、まだまだ青くない。
 部屋に果林を残し、台所に立つ。覗き込む冷蔵庫には、何本かの缶ビール。発泡酒とも違う、ちょっと奮発した物。右手で2本持ち、左手にはベビーチーズ。ベーコンは後で焼こう。カリカリにするのが美味いんだ。
 果林の目の前にそのビールを置いてやれば、目を丸くしている。これはどういうことだと。どういうもこういうも、そういうことだと言う以外にはない。それくらい自分で考えろ、と。決して突き放したわけではないその言葉が、他の奴には冷たく聞こえるのだろうか。

「高ピー先輩、いただきます」
「おう、飲め」
「やっぱホントのビールはいいですね」
「だな」
「餃子食べたいですね」
「今度Lに言って作らせるか」

 そんな他愛もないことを話しながら、少しずつ過ぎたことになっていくのだろうか。去年の自分を、今の果林に重ねて。広瀬先輩が「お前なら出来る」と言っていたことが、何となくわかってきた。

「果林」
「はい?」
「頑張ったな」

 普段は強く頬を抓るこの手をポンと軽く頭に乗せて。

「高ピー先輩、熱でもあるんですか?」
「ねぇよ」
「でも、すぐ夏合宿ですからね」

 そう言って果林はまた大きな一口でビールを流し込んだ。喉元過ぎればナントヤラ、と言わんばかりに。

「対策の反省会で、みんなで決めたことがひとつあって」
「何だ?」
「今度こそは、自分たちの信じた道を行こうって。野坂が最初にそう言って、そうだねって。仮にプロ講師の人が今日来て成功してたって悔いの方が残りまくるだろうし」

 何だかんだで少しずつ成長してんのかね、なんて去年の先輩に今の自分を重ねてみたりして。対策委員への任命は期待の現れ、というところの意味も少しずつわかったりする。今はまだ芽が出たばかりだけど、そのうち花が咲くだろうか。

「果林」
「はい」
「その決意がブレそうになったら俺んトコに来い。叩き直してやる」
「その時はキツめにお願いします。って言うか高ピー先輩って実は結構なツンデレですよね」
「うっせぇ、誰がツンデレだ」


end.


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高崎は実は果林に結構優しいのよ! 普段は頬ひっぱって「いひゃいいひゃい」ってやってるけどね! かわいい後輩だからね!
三井サンは自分上げとセットで他の人下げを平気でやってたりするよ! 高崎もそんな言われよう。
そして浮上する高崎ツンデレ説。まあでもみんなの前じゃ絶対そんなことはやんないし言わないよね!

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