エコメモSS

□NO.1001-1100
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■ビービーピックアップ

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「あー、だるー」

 鉛筆を齧りながらコーヒーを雑に注ぐその人が、星港大学情報センターのバイトリーダー、4年生の春山芹だ。オレと同じシフトで入っている時は主に受付、俗に言うA番を担当している。
 7月も中旬、学期末も近付いてきた。言い換えると、この施設の繁忙期だ。テストやレポートなどで立て込む連中がひっきりなしにやってきて、普段は1人で十分回るB番、センター内のスタッフも増員されている。
 そして少し休憩、と事務室に戻れば、漂うコーヒーの強い香りに比例するかのような春山さんの荒れ具合。障らぬナントカに祟りなし、だな。この人が鉛筆を齧るときは近付かないのがいい。

「リン、前にA番やったときブラリ入れまくっただろ」
「それが何か」
「お前に弾かれたらしい連中がやたら固まって来ててめんどかったのなんのって」

 ブラリ、というのはブラックリストの略だ。情報センターを利用する上でルールというものが存在する。そのルールに反するようであれば、スタッフが利用に規制をかけることが出来る。
 学生をブラックリストに登録するのは、あまりに悪質だと判断したときが多い。飲食厳禁の部屋でいくら言っても飲食をやめないだとか、あくまで自習室という位置づけのこの部屋で雑談をやめないとか。
 基本的に、そういう悪質な学生を発見したB番がカードキーの番号を控えてA番に通知し、カードキーと引き替えに預かっている学生証の番号を照合してブラックリストに登録する。リストに登録されれば、その警戒レベルに応じて振り分けられることになる。もちろんB番は監視の目を強め、それ以上は言わずともご理解いただけるだろう。まともにならんなら摘み出すまでだ。

「お前をA番に突っ込むと一気にブラリ登録が増えるからな」
「Bの時に通知しても、あなたが登録しないからでしょう。自分でするまでです」

 ブラックリストに登録する権限を持つのはあくまでA番の受付担当者。現場にいるのはB番なのにこのシステムはおかしいだろうと春山さんに訴えれば、お前みたいに何でもかんでもブラリに入れる奴がいるから2人で判断するんだろう、とのこと。
 今日は、オレがリストに登録した学生が何人かここを訪ねてきたそうだ。学生証を読み込む度にアラートが鳴り、ポップアップが跳ね上がれば「またか」と彼女が呆れるのにもそうそう回数は要らなかったらしい。

「この時期は登録が増えるとは言え、ある程度までなら見過ごせ」
「大目に見てます」
「その割に新規の要警戒が多い」
「この時期に新規が増えるのは当たり前でしょう。大目に見て要警戒です。こっちは即摘み出すことも出来るのに、それをしない時点でありがたく思ってもらいたいものですね」

 お前を止められる奴がいないからシフトの組み方が面倒になるんじゃないかと、胃に悪そうなコーヒーを流し込みながら彼女は憂う。確かに、春山さん以外の人がA番であれば、ちょっと失礼と一言入れてブラリ登録の手順を何度も踏んでいるだろう。

「林原さん休憩中にスミマセン、Bゾーンがうるさいって苦情が入りました」
「言っても聞かんようなら摘み出せ」
「いいんですか?」
「構わん。それとカードキーの番号を控えて来い。リストのレベルを格上げする」
「わかりました」
「リン、だからお前は」
「Bということは前科持ちでしょう。執行猶予中に罪を犯せば即有罪、何か問題があります?」

 そしてその顔を見れば、鉛筆をかじりながら何とも言えないような表情。あなたが止めてもオレはリストを格上げしますよ。それがB番の仕事のひとつなんですから。

「リン、紅茶でも飲んで落ち着け」
「オレは至って冷静ですが、春山さんが淹れてくれるというならありがたくいただきます」
「お前は先輩でバイトリーダーにお茶を淹れさすのか」


end.


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こういうリン様がやりたかったよね! 最近は天然ボケみたいなリン様ばっかりだったからね!
春山さんはリン様の行き過ぎた権力行使を止めてるような感じ。春山さんも春山さんで摘み出すときは摘み出すけどリン様はもっと極端らしい。
と言うかセリフだけだけど1・2年生と思しき子が入ってきたね! もっとこのセンターもにぎやかになると楽しいな!

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