エコメモSS

□NO.1001-1100
98ページ/110ページ

■理由ある高崎理論の強襲

++++

「おいLー。Lー、いねぇのかー?」

 握った右手で扉を叩くも応答はなく、酒瓶を握った左手の力はだらりと抜ける。テスト期間はバイト入れてないっつってたからいると思ったんだけど、9時を過ぎても帰らないってどーこで油売ってやがんだ。
 いないなら帰るか、と玄関ドアに背を向けた瞬間、誰もいないはずの階段を塞ぐように立つ柱のような影が声を発する。階段で怪談とか、ちっとも笑えねえ。

「あれっ、高崎先輩。人の部屋の前で何やってんすか?」
「お前どこ行ってやがったんだこの野郎」
「どこって、今日定例会だったんでその帰りっす」
「あ? 定例会か」

 テスト期間はサークルも休みだし、知らなくても仕方ないですけど。その言葉の裏で、ガチャリと錠の上がった音を合図に乗り込む準備は万端だ。それはもう、暗黙の了解というヤツで。同じアパートに住む俺たちだからこそ、という事情もある。
 確かに、テスト前最後のサークルの時に伊東が「ここから定例会は少し忙しくなる」みたいなことを言ってたけど、何もテスト期間のど真ん中に定例会をやるこたねぇだろって思ったりもする。いや、確か向島は1週遅いんだったっけか。

「6時始まりがカズ先輩の遅刻で例によって15分押しで、7時半過ぎに定例会終わって直と飯食ってたんでこんなモンすよ」
「ふーん」
「で、高崎先輩は何しに――って、一択みたいっすね」
「テスト期間とは言えさすがに金曜は飲むだろと思って来てみりゃいねぇし。ま、いないならいないで自分の部屋で飲んでたけどよ」
「いいじゃないすか、飲みましょうよ」

 奴の部屋も、いつでも飲めるような状態になっているようだった。同じ間取りのはずなのに、部屋の一角にバーコーナーでもあるんじゃねぇかと思うほどに立ち並ぶ瓶は、全部のラベルをちゃんと読もうとすれば時間だけが取られるほどのリキュールたち。
 そして俺の左手にぶら下がっていたのも、ここに並ぶのが適する瓶。MBCCメンバーにはそれぞれコイツと言えば、という酒がある。俺ならビールだし高木ならウイスキーと言った具合に。コイツの場合は、カシスリキュールだ。

「L、ソイツで何か作ってくれ」

 俺が放り投げたリキュールの瓶をキャッチして瓶を投げるなと文句をひとつ垂れれば、その時の気分に応じたカクテルを作り始めるのだ。オーソドックスな物からLオリジナルカクテルまで、種類は様々。

「カシオレでいーすか」
「ああ、何でも。つかカシオレとか女子か」
「それは偏見じゃないすか。あ、でもこのオレンジジュースはガチっすよ。ムトーさんがお土産でくれたヤツなんすけど美味いっすよ」
「アイツまだくたばってなかったのか」
「今はテスト期間ですし、さすがに来てるみたいなんで、ひょっとするとひょっとするかもしんないすよ」

 瞬間、ぞっとした。どうしてこんなところでまであんな奴と顔を合わせなくちゃいけねぇんだと。

「俺とムトーさんは同郷なんでナンダカンダ話が合うんすよ。勝手に部屋上がられんのも慣れたっす」
「つーかアイツ人の部屋に勝手に上がるとか常識もなんもねぇのな、知ってるけど」
「その言葉、高崎先輩にもそっくり返しときますよ」
「つーかあの野郎さっさとくたばれっつーの」
「あの人は殺しても死ぬような人じゃないっすし、死んだら化けて出るタイプでしょ」
「ふざけんな、冗談じゃねぇ」

 するとカンカンカンと近くなってくる音。おそらくその音は階段からで、近くなっているということは下から上がってくる音だろう。まさかな。言霊だのなんだの、そんな物は信じねえ。

「Lー、いるー? いるなら上がるけどー」
「あ、ムトーさん。今ちょうどムトーさんの話してたトコなんすよ」


end.


++++

THE DAY OF Lになんてしてやらないんだからねッ! とか言ってみるよ。せっかくのL誕なので2本立て。
この話の中では言ってないけど、高崎は今日がLの誕生日だということを知ってる。だからこその突撃。
きっとLのことだから音もなく階段の前に立ってたんだろう。高崎、ホラーとか苦手だしめっちゃビビっただろうなあ。

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ