エコメモSS

□NO.1101-1200
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■オッド・トリオ・サウンド

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 それは、確かに衝撃だった。
 大学祭というイベントの空気とは少しかけ離れた空気か、それとも生音が空気を伝って震える感覚か。

 星港大学大学祭2日目。午後6時から中夜祭が開始され、そのステージでは有志によるステージパフォーマンスが繰り広げられている。
 トップバッターのジャグリングからファイアーダンス、マジックショー、漫才など内容は多岐に亘り、場を盛り上げている。
 俺はその中夜祭ステージを美奈と一緒に見ていた。ステージの前に設置された丸椅子の観覧席は、左側の真ん中辺りの席を確保して。あたたかい飲み物も忘れずに。
 正直、大学祭のステージなんか大したことないだろうと思っていた節はある。漫才はともかく、トップバッターのジャグリングの時点でその認識は改めなければならないな、と感心している。

「リンのバンドは?」
「パンフレットを見る限りでは、最後……」

 このステージを見ているのは、リンが先輩に脅されて組まされたというバンドを冷やかすためだ。厳密には、それを見たいと言った美奈に付き添う形での冷やかし。
 ステージ上ではダンスパフォーマンスが終わり、次の準備が始まると実に分かりやすい。キーボードにドラム、そしてあれは――

「ウッドベース……」
「さすが美奈」

 美奈は元々ジャズをよく聴く。そこまで詳しくはないと言うけど、それでも俺よりは詳しいだろう。そしてこのセット組みということは分かりやすく次はバンドのステージ。

「次が中夜祭最後になります! 気紛れバンド、ブルースプリングのステージです!」
「おっ、来たな」
「スーツ、衣装…?」

 スーツで身を固めたそのトリオバンドは、パッと見イロモノだ。だけどその音は、確実に俺の中に響いている。物理的な意味でもだけど、学祭ステージだとナメきっていた俺の中から「冷やかし」という単語を消し去るには十分な熱量。
 チラリと横に目をやって美奈の様子を窺っても、微動だにする気配がない。その視線の先には、ステージ上のリン。時折苦笑いを浮かべながらドラムとベースを窘めるようなその顔は、ゼミ室では見られない物だった。

「確かに、みんな通ったジャンルが違うというのは、窺える……」
「そういやリンがそんなことを言ってたな」
「ジャズを通ってるのは、多分、ベースの人だけ……だけど、アレンジを聴く限り、リンも自分のいたところをコードで主張してる……」

 息を合わせたステージのように見えて、個々の主張もそれなりに激しい。まるで、楽しみながら戦っているようにも見える。美奈がこのバンドを見た感想をそう言えば、まるで俺の目にもそう見えてくる。
 180センチはゆうに越える長身を狭いドラムセットに押し込めた男はニコニコとした顔の割に音が激しい。苦虫を噛み潰したような顔をした、男か女かわからないベースがこのバンドの首謀者だろう。それは、リンを睨みつける視線の強さでわかる。
 2、3曲あったらしいがどれがリンの作った曲なのかもわからないままステージは終わり、美奈の頬を一筋の涙が伝っていた。俺も謎の爽快感に襲われていたから、恐ろしいのはこのライブ感だ。

「次リンと顔を合わせたら何を言ってやればいいかわからない」
「徹が素直に褒める方が、リンにとっては不意打ちになる……」
「確かに」


end.


++++

ブルースプリングのライブを見ていた石川と美奈です。美奈はこのためにバイトを休んだよね!
あとね、春山さんはリン様を睨みつけてるんじゃなくてそれが地の目つきの悪さなんですよ石川さん! あと女の人だよ!
リ、リン様が先輩二人を窘めるような目をしていただって…!? ちきしょうリン様め \リン様マジリン様/

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