エコメモSS

□NO.1101-1200
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■EAT EAT EAT!

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 普段の佇まいにも独特のオーラのようなものを感じるんだけど、今日の圭斗先輩はまた一段と雰囲気があった。物憂げで、アンニュイな。それでいて絵になるだなんて、さすが圭斗先輩だ。
 ただ、顔色はあまりよろしくないようだし、心なしかほっそりされたような。ただでさえ細身、言ってしまえば華奢な方なのに、さらにとんでもないことになって、触ると折れそうだ。

「あの、圭斗先輩……お疲れでいらっしゃるのでしょうか…?」

 夏合宿の班打ち合わせを終え、先輩から言われるがまま残ったサークル室。何をするでもなくただ近況を話し合うにはやっぱり異常で、気にせずにはいられないんだ。

「ん、定例会の方でね」
「定例会はそんなにお忙しいのですか?」
「定例会以外の人はあまり知らないだろうから大っぴらにする気もないけどね」

 そして圭斗先輩は定例会が請け負っているイベントMCの件について語ってくれた。向島エリアで行われる祭のMCを、定例会……いや、向島インターフェイス放送委員会のスポンサーの依頼で行っているということは初めて聞いた。
 そのイベントの練習やリハーサルを、この夏合宿の打ち合わせやその他諸々のスケジュールの合間に行ってきたそうだ。そして先日ついに本番を迎え、それまでの疲れが一気に襲ってきたとのことだった。

「こないだ実家で体重計に乗ったときは衝撃だったよ。もう少しで50キロを割るところだったからね」
「ナ、ナンダッテー!? あの、失礼ですが普段は」
「大体53とか54とか」
「圭斗先輩お言葉ですがそれでも十分に衝撃です…! 俺より身長も高いのに10キロ以上も違うだなんて!」
「お前とは体格からして違うからね。男としてはお前くらいが適正だと思うよ。僕はよく痩せすぎだと言われる」

 そして圭斗先輩は、お母様から「50キロを割ったら強制送還だ」という宣告を受けたらしい。つまり、一人暮らしをしている今のアパートを引き払って実家から大学に通えということだ。そして、食べるものを食べて健康を取り戻せと。

「だから今は結構無理矢理食べてるよな」
「圭斗先輩はあまり量を食べる方でもありませんしね」
「なあ野坂、どうやったらお前張りに食えるんだ?」
「そう言われましても」
「お前、高校までは運動部だよな」
「はい、高校はラグビー部でした」
「それだけ外で走る部活で、練習後に飯なんて絶対食えないだろ」
「申し訳ございません圭斗先輩、食べないと保ちません。丼いっぱいの白米は余裕です」
「そうか、僕は食べることを怠ったからバテていったんだな」
「はい、おそらく」

 対策委員のツートップが夏なのに元気なのは飯を食ってるからか、と圭斗先輩がすごく真面目な顔をしておっしゃるものだから、ひょっとして本当にそうなんじゃないかと思い始めてきて。

「ああ、夕飯どうするかな……作るのも面倒だ。納豆食っときゃ死なないか」
「いえ、納豆だけではさすがに。圭斗先輩の嗜好を考えますと、夏ですし豚キムチ丼などはいかがでしょうか。納豆との相性もバツグンだと思いますが」
「ん、いいね。ただ、問題は人の目がないと食べる気もしないというところだね」
「俺でよければ監視役になりますが」
「ん、それなら食べてくか? いや、家に用意されてるか」
「申し訳ございません圭斗先輩、ハシゴ飯なんて余裕です」

 そして圭斗先輩は真面目な顔をしてこう聞いてくるんだ。お前はそれだけ食ってるのにどうして太らないんだと。それが何故かは自分でもわからないけれど、燃費が悪いということなんだと思う。バテることが少ないのはありがたいけど。
 これからの俺の仕事は圭斗先輩にいつもの帝王オーラを取り戻していただくこと。今の物憂げなオーラも美しくて絵になるけど、やっぱりいつも通りが一番いい。


end.


++++

と言うか対策ツートップ(ノサカ・果林)から食事を奪ったら本当に死ぬから…! めんどいという理由で食べないずぼらとは違うのよ。
さて、夏のやつれ圭斗さん。うっすら生えた髭も実は少し剃り残していたらしいです。敢えてそこに触れないノサカ。
ノサカも圭斗さんも「食べても太らない」ってのが共通点なんだろうけどそれを言ったら菜月さんに怒られるぞ!

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