エコメモSS

□NO.1101-1200
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■triangle to square

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 雨が打ちつける中、ヴァレンティーナと名付けられた車の中には空の色にも似た重々しい空気が立ちこめていた。
 そう表現する程実際は重くないかもしれない。ただ、滅多にない3年生3人だけでの重要な会議ということがそう感じさせる。

「インターフェイスや大祭実行委員なんかと通じる総務には神崎がいいと思うけど、どうだい菜月さん、三井」
「異議なし」
「うん、俺も総務はこーたがいいと思うよ」
「じゃあ総務は神崎で」

 行われているのは他でもない、次期MMP役職会議だ。MMPでは学祭終了と同時にサークルの代替わりが行われる。
 今の2年生は頭数があるから代表と会計職を分けようという案は野郎2人に反対されることなく通った。
 アナ部長にはヒロが自動当選して、先のやり取りでカンザキが総務に。あとは代表、機材管理担当、会計をどうするという段階。

「神崎が総務ということは、代表と機材管理は野坂とりっちゃんだね」
「圭斗はどっちに任せたいの?」
「僕は野坂かなという気がしているけど」

 圭斗も代表には野坂推しなんだね、と珍しく男2人の意見が合致している。ただ、こうもすんなりとノサカを代表にしていいものかと、うちは正直不安だ。
 圭斗と三井よりうちは2年生のことを見ていると思う。他の3人は知らないけどノサカに関しては言い切れる。だからこそだ。
 あのネガティブでプレッシャーに弱い男にサークルの代表を? そりゃ自分1人でやるワケじゃないし他の3人もいる。だけど不安要素はいくらでも。

「菜月さん、難しい表情をしているけど」
「うちの個人的な意見だけど、ノサカは代表にしたくない」
「またどうして」
「対策の話をしていても「俺は菜月先輩のように対策委員も纏められずに」とか言って鬱になる男だぞ。サークルに圭斗の幻影を見ない理由がどこにある」

 それでも、と三井は自分の意見を押してくる。対策での経験があるからこそと。真面目とか丁寧とかそんなのうちだって、いや、うちが1番知ってる。だから代表にしたくないって言ってるんじゃないか。
 圭斗は自分が何かを言うことをやめてうちと三井の話し合いを眺めていた。何を考えているのかわからない澄まし顔。いかにもノサカが囚われていそうな怨霊の顔で。

「ノサカが上に立つ力のある男だってことはわかってる。でも今も対策で頑張ってるんだ。来年度はここで、ミキサーのことに専念させてやってくれないか?」

 バチバチと、強い雨音だけが車内を埋め尽くしていた。今のこの頼みだって、私情に過ぎないとわかっている。それでも役職に対する重圧や先輩の怨霊で潰したくないんだ。

「確かに、野坂の真面目で丁寧っていう性格は機材管理向きでもあるんだよね。圭斗、どう思う?」
「野坂の事を菜月さんに言われちゃ、僕らに勝ち目はないよ。それに、村井サン然りで適当に見せかけてしっかりと舵取り出来るタイプの方がMMPっぽい。りっちゃんなら僕も安心して引退できるよ」
「りっちゃんのラブ&ピースにはこーたがツッコむし、バランスは悪くないね」
「それじゃあ、代表がりっちゃんで総務が神崎、機材管理に野坂でアナ部長がヒロということでいいかい? 書記は奈々で」
「異議なし」

 さあ会議も無事に締まって、と思った矢先のこと。忘れかけていた大事な役職がひとつ。

「ところで菜月さん、三井、会計はどうする?」
「あ」

 会議はまだまだ終わらない。結局うちら3人はつかず離れずの正三角形だったけど、次代MMPがどうなって欲しいのかという願いがそこにはある。第8代の総意はしっかりまとめて。


end.


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本来は短編でやるべき話なのでいつか出来たらいいな!(アルバム曲のシングルカットみたいなノリで言ってるけど)
次代会議はどこでも行われてると思うんだけど、向島も案外真面目に話し合いをしていたらしい。3年生3人の会議…だって…!?
圭斗さんの幻影と言うか怨霊と言うか。表現が悪い辺りが菜月さんっぽさということにしておこう。

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