エコメモSS

□NO.1101-1200
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■本丸マウンテン

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「お邪魔します」
「アオちゃん来たね。さすが5時ぴったり。どうぞー、上がってー」
「あの、ここってミドリの部屋……ですよね?」

 上がり込んだアパートの一室には、甘ったるい匂いが立ちこめていた。机には粉の入ったボウルに牛乳、卵、そしてたこ焼き機。使い捨ての紙皿なんかも用意されている。
 加奈先輩がボウルの中に牛乳や卵を投入して、かき混ぜる様子はどこからどう見てもホットケーキかそれに似た物を作ろうとしてる微笑ましい光景。ただ、おかしいのは家主の姿がないこと。

「ミドリは8時までバイト入ってんだって」
「家主がいないのに部屋を借りてるんですか」
「許可は取ってある」

 ツカサ先輩はそう言うけれど、8時まで戻らないという家主の部屋で好き勝手にホットケーキパーティー、と言うか厳密には大学祭で出すベビーカステラ風の物の第3回試作会をやるというのも後ろめたい。

「情報センターってそんなに忙しいんですか」
「ミドリが言うにはバイト先で力のある先輩が学祭でバンドやるとかで、その練習だの曲を書くのに時間を取られててしわ寄せが来てる、とのことらしい」
「それで最近情報センター行ったらミドリが受付やってたり部屋で補助員やってたりしたんだね」
「こまっちゃんは結構見かけた?」
「うん。サークルよりも情報センターでの方が会ってたかも」

 ホットケーキミックスとたこ焼き機で作るベビーカステラ風の物のレシピは加奈先輩が事前に調べてくれていたからそれに沿って焼くだけ。後はトッピングの相性や、材料費や販売価格の調整といったところの打ち合わせが主。
 熱されたたこ焼き機の上にホットケーキの生地が流れ込み、表面に泡が出るまで待つんだよ、と加奈先輩から声がかかる。夕時で、ちょっとお腹も空いてきた。ベビーカステラ風に焼き上がったら、食べてしまいたくなる。

「アオちゃんはどんなトッピングにするー?」
「2種類ですよね」
「うん、組み合わせでー」
「この中なら生クリームとクッキークランチですね無難に」
「生クリームとクッキークランチに1票ずつ」

 加奈先輩の声と同時に羽咋先輩がテルメモにそれを記し、ひょっとしてUHBC内でのトッピング選挙でも行っているのかな、と推察するには十分だった。

「でも、サークル室での試食会までに味覚がマヒしそうだ」
「確かに。俺もツカサも試作品食いまくってるし、誰かまっさらな状態で試食できる人が来ればいいのに」
「アオちゃんがいれば石川先輩を引き付けるかもしれないね、何か不思議な磁場か霊感みたいなもので」
「加奈先輩、そろそろそういうオカルトじみたのやめませんか」
「加奈、それなら石川先輩対策としてチョコソースは多めに用意しとかないと。あの人チョコレート狂だし」

 生地の表面にぷつぷつと泡が立ち始めた。ひっくり返すタイミングはここ。本番に向けての練習でもあるから形を崩さないように、穴を開けてしまわないように、きれいな丸になるように。
 家主がいないことなどとうに忘れていた。目の前のベビーカステラ風の物をひっくり返すのに集中して、狭まる視野。成形技術向上に余念がない。そうやって夢中になった時間に比例するのは丸の山の高さ。

「さすがアオだ、もう丸くする技術を習得してる」
「でもツカサ、こんなに作って、俺らがこれを食う?」
「……バイト上がりのミドリに食わせよう」
「それだ」


end.


++++

へえ、ミドリって一人暮らしだったんだね! でもIF1年生の集会はタカちゃん宅がメインっていうあれやこれや。
てか情報センターwww 先輩たちのバンドというのは春山さんとリン様(+青山さん)のブルースプリング。ミドリも大変だなあ……
今回のテーマは地味に「UHBC2年生救済」でもある。2年生の中でも影が薄い子たちです。

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