エコメモSS

□NO.1201-1300
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■括弧書きの推察

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「やあ」
「ああ、青山さん。おはようございます」

 大学祭バンドがきっかけで知り合ったリン君(本名は未だにちゃんと聞いていない)は面白い子だ。あの傍若無人な芹ちゃんと対等に渡り合えているだけはあるなあと思う。
 その彼の隣にいる控えめな美人さんは友達か、彼女か。髪は腰に届きそうな焦げ茶のウェーブ。化粧はちょっと濃いめだけど、元もきっと美人だしおしゃれにも気を遣っていそう。リン君、やるなあ。

「美奈、学祭のバンドを見たのだろう? あのバンドのドラムの先輩だ」
「どーも、青山です」

 リン君から紹介されて、ミナと呼ばれた彼女にぺこりと挨拶をしてみるも、彼女は無言で会釈をひとつ落としただけ。控えめと言うか、警戒心が強いのかな。リン君とは楽しそうに話してたみたいだけど。

「彼女、怖がらせちゃってるかな」
「いえ、美奈は人見知りなので初対面であればこんなものです」
「ならいいけど」
「バンドのパフォーマンスに対しても悪い評価ではなかったようなので、特別警戒しているとかではなさそうですけど」
「そうなの?」

 そう訊ねると、彼女は無言で首を縦に振った。これは無理に目を合わせようとしない方がいいんだろな。でもそうなるとリン君に対する心の開き方がスゴいってことなんだろうなあ。
 ただ、バンドのステージを見てくれて、悪い評価ではなかったというのは純粋に嬉しい。その事実だけで、もうちょっと彼女と何かを話してみたくなる。気になるのは、彼女の声。

「あの……」
「なになに?」
「……リンの曲は、どれですか…?」

 今それを聞くかとリン君が困ったような顔をしているのはなかなかにレアな物を見れたような気がする。バンド練の時は眉間にシワが寄ってたり、呆れたような顔をしている率が高かったから。
 きっと彼女は中夜祭ライブでのことを言っているのだろう。リン君の作った曲は全6曲中3曲。あと3曲は芹ちゃんが独断と偏見で決めた。開くのは、脳内にあるセットリスト。

「リン君の曲は3曲目の「Go away, Spring」、4曲目の「The guess of Parenthesis writing」、トリの「morning glow」だね」
「どうしてそうペラペラと教えるんですかそれを」
「いいじゃない、減るモンじゃないんだし。ねー」

 すると彼女はまたこくりと首を縦に振った。
 リン君の気まずそうな顔に思い出すのは、練習後に酒を飲みながら話した曲のあれこれ。「Go away, Spring」は芹ちゃんに対する恨みって言ってて、それをケラケラと笑っていたけど。
 「The guess of Parenthesis writing」という題を直訳すると「括弧書きの推察」になる。少ない情報の中からその意図を酌むことがどうとかって話。元ネタは彼女だろう。
 そして「morning glow」は「朝焼け」。いつもキーボードを弾いている地元の海に朝日が昇る瞬間が印象的だったと言っていたけど、何となく、聞いてみたいことがひとつ。

「ねえミナさん、西海の海岸で朝焼けって見たことある? リン君と一緒だったならさらにいいなあ」
「美奈、余計なことは言うな。春山さんに伝わると面倒だ」

 縦に振られた首とリン君の言葉から推察するに、きっとリン君の中で印象に残っているのは、彼女と見た朝焼けの海だったのかもしれない。そしてそれを曲にした。
 彼女に曲のあれこれを詳しく話さなかったのは、芹ちゃんへの恨み以外は彼女が元ネタだったからじゃないかなって。まあ、芹ちゃんには言わないでおいてあげるけどね、推察止まりだから。


end.


++++

まさかのw リン美奈&青山さんwww まあでもせっかくいいキャラだし青山さんも有効活用しますよ! いつか蒼希とも絡ませたい。
っていうかね、リン様の曲にタイトルまで出来たというのがなんと言うかね! 誰か書いてくだsげふん
括弧書きの推察どうこうっていうお話は、いつかのエコメモSSの「(ウィズ・ユー)」。

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