エコメモSS

□NO.1201-1300
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■絆された透明感と見透かした罠

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「浅浦クン!」
「ああ、宮林サン」
「お茶しない?」

 そう言われてやってきたのは、いかにも和風な落ち着いた雰囲気の店だ。彼女の運転する車で、他に行き先を迷うことなく。
 普段は天ぷらの店だけど、カフェタイムには抹茶のドリンクや和の甘味を出しているようだ。洋菓子の食べられない俺に対する彼女なりの気遣いなのかもしれない。
 彼女は抹茶フロートを、俺は熱い抹茶を飲みながら、話しているのは他愛もないことばかり。きっと、俺の顔を見かけたから気紛れで引っ張ってきたのだろう。でも珍しいな。伊東はどうした?

「ところで、アンタ最近伊東とはどんな感じなんだ?」

 たまには直球を投げ込むことだってしてもいいだろう、気になるんだから。このバカップルの付き合いも6年目に入って、そろそろいろいろ考えることを考えてるのは聞いてるんだから。
 投げ込んだ直球に対してその配球は読めなかったのか、彼女はわかりやすく動揺し始めた。彼氏とはどうだなんていろんな人から聞かれるだろうに。そういう初々しさが抜けないな、いつまで経っても。

「あのね浅浦クン」
「うん」
「うち、こないだの13日にカズからプロポーズされて、それにオッケーの返事したの」
「そうか、おめでとう」

 13日の付き合い始めた記念日に彼女にプロポーズをする、ということは伊東から相談されていた。彼女からそれを受けたというこれは……報告だろう。その報告に対しても、純粋な祝福を。

「浅浦クン、驚いてないってことは、あっ、もしかして知ってた!?」
「プロポーズに成功したっていう報告はまだ受けてないから」
「まあ、カズのコトだから浅浦クンの後押しを受けてただろうなってコトくらいお見通しですけど!」
「ならいいだろ」

 果たして彼女は俺に何を求めているのだろうか。プロポーズをされたことに対して大袈裟に驚けばよかったのだろうか、俺はリアクション芸で生きているタイプの男でもないのに。

「でも、それをどうして俺に?」
「他の人相手だったら単なる惚気自慢になっちゃうけど、浅浦クン相手だったらこれからも末永くよろしくお願いしますっていう挨拶になるかなーと思って。うちは伊東家のお嫁さんになるんだから、浅浦クンとの付き合いは続くでしょ?」
「なるほどな、確かに」

 俺相手でも十分惚気だけど、これからのことに対する挨拶というのは的を射ているな、と。親の世代から続く腐れ縁という物が切れる気配は今のところこれっぽっちも見えないのだから。
 「伊東家のお嫁さん」と言い慣れていない様子も、照れが滲み出ていて少しかわいい。そんなことを実際口に出して言おう物なら伊東に殴られるのは覚悟しなければいけない。

「こないだカズの実家に挨拶に行ってきてね、じゃあ準備を始めようってなって」
「おじさんと京子さんは何て?」
「京子サンは雅弘にもちゃんと言っときなさいよーって。カズは別に今すぐじゃなくていいって言ってたけど」

 この人の配球を読めてなかったのは俺の方だったんだろうなと今になって思う。こうやって俺の嗜好に合う店を、洋菓子好きのこの人がすっと出せること自体が計画の上だったのだと。

「何はともあれ宮林サン。こちらこそ、これからも末永くよろしくお願いします」


end.


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いっちー×慧梨夏カップルの動きが今年は加速しているようですね。結婚に向けてしっかりと話が動いているようです。
子供が生まれたりでもしたら雅弘おじちゃんのお世話になることだってあるだろうしね、しっかりとその辺挨拶はしとかなきゃね!w
浅浦クンのリアクション芸が逆に気になるよね、それで生きているタイプでもないって言ってるけど。

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