エコメモSS

□NO.1201-1300
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■不信の産物

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 高崎先輩については前から、それこそ春学期の頃から気になっていたことがある。
 それは何かと言えば、アナウンサーとミキサーの作業を1人で同時にこなしながら番組をやる、所謂「マルチ」という物をやろうと思ったきっかけだ。
 そのきっかけ自体は伊東先輩から少し聞いたことがある。何でも、今ではレアキャラの武藤先輩との確執が絡んでいるという話だけど、高崎先輩本人の口から聞いてみたいと思った。

「マルチを始めたきっかけだ?」
「はい。差し支えなければ聞きたいなと」
「つーかお前がそれを聞いてどうすんだ、高木」
「特に何をするでもないですけど」

 昼放送終わりの3限の時間帯、第2学食。俺は揚げ鶏丼を、高崎先輩はソースカツ丼をカウンターから受け取って。席についてそれを訊ねれば、高崎先輩の割り箸が不自然に折れる。
 換えの割り箸を持って帰ってきた先輩は、お茶を一口含んで間を取った。そんな大した話じゃねぇけどなと前置きをした上で、その経緯を話し始める。

 どうしてそんなことを気にしたのか。MBCCのパートはアナウンサーとミキサーの2つだけど、アナがミキサーを触るのはあまり見ないし、ミキがマイクの前で喋るのもあまり見ない。
 それなのに高崎先輩がミキサーを触ろうと思ったきっかけやその時の心境なんかが気になった。それも、アナウンサーという部分を捨てずに、マルチという方法を選んだ理由も。

「1年の時の、ちょうど今ぐらいだな。当時昼放でペア組んでた武藤とやり合ってよ。元々相性が良くなかったんだ。実力はある程度認めてんだけど互いに互いのスタンスを毛嫌いしててよ」
「そうだったんですね」
「まあ、そんで俺のやり方にキレた武藤が番組をボイコットして、代わりのミキも捕まんなかったからそれなら俺が1人でやってやらあ――とまあ、それだけだ」

 淡々と丼を食べながらその頃のことを振り返る高崎先輩はいつものようにドライで、シビアな顔つき。きっと、あまり思い出したくはないことなのかもしれない。
 高崎先輩がマルチで番組をやった結果、ド派手に放送事故を起こしてしまったということも伊東先輩から聞いている。でも、俺が聞きたいのは伊東先輩からも聞いた事実じゃなくてもう一歩突っ込んだところ。

「でも、高崎先輩ってそこらのミキサーよりは上手いじゃないですか、ミキサー」
「ミキにあれこれ口出すからには俺が出来なきゃ説得力ねぇだろって思ってた時期の名残だ。今でこそある程度人に投げることも出来るようにはなってんだけどよ、昔の俺は全部が全部、そこに至る過程に対する根拠から何から理由づけて、かつ俺の手の届く範囲内で行われないと納得出来ねぇ石頭だったのな」

 人のやることすべてに理由を求め、感覚的・直感的行動を非とするスタンス。直感や第一印象で番組計画を立てる俺は、当時の高崎先輩からすれば許せない存在だろう。
 そして高崎先輩は「お前はどことなく武藤に似ている」と言った。押しが弱く、厚かましくない武藤先輩のようだと。感覚型ミキサーと番組をやるのも久々だと、どこか遠くを見るような目で。

「俺のマルチは、やりたいことを実現出来るミキがいねえなら自分でやろうっていう不信の産物だ。あまり誉められたモンじゃねえ。どうだ、聞いても面白くなかっただろ」

 果林先輩との作品出展の番組や奥村先輩との夏合宿では俺のやりたいことを尊重してもらえたけど、アナウンサーさんの要望にも応えられないとダメだなと。甘えっぱなしじゃまだまだだ。

「先輩」
「あ?」
「俺は、高崎先輩のやりたい番組を実現出来るミキサーですかね」
「胸に手ぇ当てて考えろ」

 そう言って高崎先輩は空になった丼を前に手を合わせた。


end.


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最初は無理でも、回数を重ねるうちに出来るようになると思われていなければ、仮に消去法でもペアになんてならないよ!
育ちゃんとのあれこれを高崎が自分で語ることはしないけど、まあ、今回は特別害もないだろうと思ったのかな。
そうだね、タカちゃんはいっちーを師と仰いでるけど、感覚型っていう見方だと確かに育ちゃんタイプとも言えるね。

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