エコメモSS

□NO.1201-1300
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■冬のオアシス

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 壁越しに、振動と騒ぎ声が背中を打つ。お世辞にも寝心地は良くない環境でうっすら開けた目には、煌々と光るテレビの画面。
 寝そべったまま感じる頭の上の気配に、ここがカラオケボックスだということを思い出す。

 久々に集まってみるか、と緑ヶ丘3年と向島3年の間で企画された飲み会。MBCCからは俺と伊東が、向島からは菜月と圭斗が出てきてその日を迎えた。
 飲み自体はいつものMBCC飲みとは比較にならないほど穏やかだった。きっと、人数と相手によるものだろう。この後で用事があるとかで、伊東が酒を飲まなかったというのも大きい。
 そして圭斗も「僕も失礼するよ」とあっさりと帰ってしまった。帰るなら足元の怪しいこの女を連れてけよと思ったが、俺の腕にしがみついて離れなかったから眠れる場所を探した。

 漫喫は何軒回ったか覚えていない。星港駅周辺にある店は表通りも裏通りも手当たり次第回ったけど、同じことを考えた奴らで溢れていた。さすがにもう冷える。菜月こそ寒さには鈍いが俺がキツい。
 限界を感じて駆け込んだカラオケ店。部屋に入った瞬間倒れ込むように俺も菜月もソファに寝そべった。目を閉じればいつでも落ちる。エアコンの電源を入れ、これ以上は冷えないように。

 そして現在に至る。パクパクと口を開くも、声にはならない。どうやら効き過ぎた暖房で喉が渇ききっているらしい。そして、耳に入ってくる声。菜月だ。寝苦しいのか、寝返りを繰り返していた。

「……タカサキ…?」
「わりィ、起こしたか」

 ふるふると横に振られる首も、弱々しかった。そして、まともに出ていない俺の声をよく聞き分けたなと、ボーッとしながらも感心した。
 テーブルの上、菜月の脇にはペットボトルの水。今はそれが、喉から手が出るほど欲しい。どうやら菜月も渇いていたのかそれを含み、携帯で今の時間を確認する。ポツリ、「3時か」と。

「わりィ菜月、それ、一口くんねぇか」
「ん……」
「サンキュ」

 そしてエアコンを弱めた。薄い光でも、菜月の顔が火照っているのがわかったからだ。そして俺も体全体が熱い。すっかりぬるくなっていた水ですらとんでもなく冷たい物に感じられる程には。

「高崎」
「あ?」
「……具合、悪いんじゃないか?」
「さあな」
「声、違う……」
「喉渇いて掠れてたからだろ」
「水飲んだ後、って言うか今。お前のこの声、知ってる。熱出してる時の声だ」
「せっかく何も感じてなかったのに、意識させんな……」

 そして、ぐらり、と重い頭に振られるようにソファに倒れ込めば胸が詰まって、息が上がるのを感じる。自覚させられた瞬間、こうかよ。だっせェの。
 酒を飲んで寒空の下を歩いたからこうなったと仮定すれば菜月の所為にすべきか、この女を置いてさっさと帰ってしまった圭斗を呪うべきか。だが、まず恨むのは自分の体だ。

「冷たいの、入れてくる?」
「……水がいい」
「わかった」

 それから次に目覚めるまで菜月の声を聞き、姿を見た記憶はない。ただ、テーブルに突っ伏す菜月と、額に乗っていたおしぼりがその間のことを物語っていた。グラスの中にはひとつも減っていない水。すっかりぬるくなったそれをそれを飲み干す、午前7時前。


end.


++++

たまにはこの2人のあれこれもやってみたくなるのよね! 久々に高菜だよー!
高崎は案外体が弱いのかもしれない。弱いと言うか、繊細と言うか。ちょっとのことで乗り物酔いだってするしね。
とりあえず、今回の件に関しては圭斗さんを呪っておけばいいんじゃないかな!

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