エコメモSS

□NO.1201-1300
32ページ/110ページ

■トリプルアーチ

++++

 後ろから何気なく目をやる分にはとても絵になる光景だな。フリードリンクのリアルゴールドを飲みながら、その緩い弧に目をやる。

「菜月さん、どうぞ」
「頑張って……」

 どうやら圭斗と美奈が水面下で連絡を取り合っていたらしく、ダーツでもという話になってからは早かった。どうせならとうちも誘われたんだけど、何て言うか、次元が違う。
 圭斗は形から入りたがる胡散臭さが滲み出ているけど、美奈は本物。運動は苦手だと言うけれど、狙ったところに矢がバスンバスン刺さっていて、とても素人のうちが太刀打ち出来るはずもなく。

「ん、菜月さんやるね。高得点のトリプルばかりだ」
「さすが……」
「一応真ん中を狙ってるんだぞ」
「でも、点数的にはとてもいい……」

 自分の席に戻ってグラスに刺さるストローをくわえつつ、美奈の投擲に見惚れる。ダーツの前にはビリヤードをやったんだけどこれも絵になっていたし、やっぱり美奈はカッコいい。
 多分うちがいるから吸わないように気遣ってくれてるんだろうけど、こういうシチュエーションだと煙草を吸う仕草でさえもいつもよりよく見せるフィルターになるんだろうな、と思う。

「でも美奈、よくレベルの違いすぎる僕の誘いに乗ってくれたね」
「本気でやるのは、オンラインか、徹たちと来るとき……トニーとは、菜月もいるなら、楽しみたいのは雰囲気……」
「なるほどね」
「美奈が本気を出すくらいだから、石川は上手いんだな」
「腕自体はトニーと変わらない……でも、徹は勝負になると運を引き寄せる……それが厄介……」
「へえ」
「特にクリケットでは、性格の悪さが出る……」

 美奈がいつになく饒舌なのは自分のホームだからか、それともこの雰囲気を楽しんでいるのか。後者だと少し嬉しいなと思いつつ、改めて矢の投げ方を訊ねる。
 肘を動かさずその先を動かすようなイメージで、と添えられた手によって自分の意志のないまま腕が動かされる。圭斗は、菜月さんをこれ以上手強くしないでもらいたいな、と苦い表情。

「圭斗、お前は基本上から目線だけど、ナンダカンダでうちはお前に負けたことがないんだぞ」
「わかってます。だから懲りずに挑んでるんだよ。僕にも一応菜月さんにダーツを教えた立場という物があるからね。ビギナーズラックで勝ち続けられるほど甘くないと知らしめてやろうとは思ってるんだよ」
「トニー」
「何だい?」
「菜月は、ビギナーズラック以外の物も持ってる……一筋縄ではいかない……」

 その言葉を受けた圭斗は胡散臭い顔でにっこりと笑い、知ってるよ、と不敵に放つ。狙ったのか偶然か、放った矢は真ん中に刺さる。僕にも美奈に本気を出させる実力か運がついてくるといいんだけど、と。
 それに対し美奈は冷静に、トニーは不確定要素を当てにするより実力をつける方が早いと返した。その目はまるで、本気で私に挑むなら手加減はしない、早くここまで来いと挑戦を受けるようでもあった。

「美奈って案外負けず嫌いだよね」
「やるからには負けたくないし、やられたら、やり返す……そういうスタンスでなければ、私のゼミではやっていけない……」
「賭け麻雀も割と日常なんだよね、うちには想像もつかないや」
「私たちの概念で「勝負」は、生きるか死ぬか……」

 そして美奈は、トニーも麻雀出来たはず、と目をやるんだ。圭斗は何かを察したのか、僕は嗜む程度で生きるか死ぬかの世界で打つほどではないよ、と苦笑い。

「圭斗、麻雀て面白いのか?」
「ん、面白いよ」
「菜月、そこに卓があるから、よかったら教えるけど……」
「美奈、これ以上僕が菜月さんに勝てない物を増やさないでもらえるかい?」


end.


++++

菜圭祭の前夜祭。まあ何て言うかダーツをやる人たちがやってる姿を見たかったというだけの回。って言うか美奈だな!
「クリケットだと性格の悪さが出る」ってどストレートに言っちゃう辺りが石川への遠慮のなさを感じるよねwww
そして菜月さんが麻雀デビューしそうな雰囲気ですがこれ美奈さん地味に仲間を作ろうとしてないですかね

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ