エコメモSS

□NO.1201-1300
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■ディナーはフラフラット

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 力の入れどころを見誤ると、実に無駄な手数を踏むことになるというのが僕の持論。いや、持論と言うほど大袈裟な話ではないけど、何となくそう感じていること。
 そりゃ、何事にも一生懸命なのはいいことだと思うよ。だけど時には適度に力を抜いて、本当に力を入れるべきその時まで温存しておくということも必要だと思わないかい?

「久々に凝った料理を作りたい周期が来てね」
「寒くなってきたから外に出たくないだけだろ」
「言い換えるとそうだね」
「これくらいで外に出たくなくなるとか、お前は本当にだらしない男だな」
「僕の寒さ耐性を菜月さんレベルで語って欲しくないね」

 だんだん気温の上がらない日も増えてきて、家であたたかい料理を作ろうと思う日も比例するように増えている。夏は多忙のあまり食べることも放棄していたけど今はやる気、食べる気に満ち溢れている。

「料理をしてるって言う割には全然メールが来ないじゃないか」
「会心の出来とは言い難いし、そもそも僕一人で食べることを前提にしているからね」

 たまに量を作りすぎたときやこれはという出来になったら菜月さんや先輩方にメールをして食事を振る舞うことがある。鍋物や煮物だとそうなりやすいけど、一品料理だととても。
 そして菜月さんはおでんだおでん、と喚き始めた。カレーパーティーのようなノリでおでんパーティーをやろうと。それはとても魅力的ではあるけど、どうせやるならとことんガチでやるだろ。

「最近は作った物を携帯のカメラで撮ってるんだけどね」
「ふーん、ちょっと見せて」

 菜月さんにさらりと写真群を見せると、例によって胡散臭いだの何だのと言い始めそうな表情だ。それをさらに後ろから覗き込んでいる野坂は腹が減ったとその欲求を素直に発した。

「さすが圭斗先輩、実に美味しそうですしおしゃれですよね」
「確かにワンプレートにいろいろ乗せてるところがオシャレカフェっぽくて無駄に圭斗っぽいな」
「お洒落に見えたなら嬉しいよ」

 サラダを乗せ、ライスを乗せ、メインを乗せた白い皿。お洒落に見せているように見えたその写真も、実は脱力の結果。ワンプレートで済ませた方が後々洗い物が少なくて済むんだ。
 だけどそれを知らずに野坂は僕を褒め称えているし、菜月さんはブツブツと文句を言っている。本当のことを言おう物なら菜月さんはきっとさらに皿くらい洗えと言いそうな物だけど。

「そこまでこだわる圭斗サンならさぞかしおでんもスタイリッシュおでんか何かにしてくれるだろ」
「おでんは透き通った汁に、中まで味の染み込んだ具を追求してみたいね。ダシももちろんイチから取って。本格的にやるなら準備も込みで1週間は欲しいね」
「ふああっ! 圭斗先輩のガチおでんダッテー!? そんなの絶対食べたいに決まってるじゃないか!」
「一人で食い荒らしてくれるなよ、野坂」

 本当に力を入れているときは洗う食器が増えようが、調理においても必要な手順を丁寧に踏む。金銭面も気にしない。そうやって完璧な物を追求していくのが僕のやり方。
 だけど力を抜くときは本当に抜いて。だけどそれすらもいい風に見えたなら、僕のイメージに沿うようなお洒落感を漂わせたなら儲け物。

「圭斗、こだわるのはいいけどコストは低めで抑えろよ」
「それは無理な相談だね」


end.


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脱力圭斗さんとお料理のお話。圭斗さん的に、白いワンプレートはオサレ狙いと言うよりは本当に洗い物を減らしたいだけ。
そして、料理をしてるならメールをよこせというスタンスの菜月さんはやっぱり安定の強奪げふん、ごちそうになりたがりですね!
圭斗さんの行動に対してあらゆる方向から賞賛の言葉を投げかけるノサカも神出鬼没だぞ!

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