エコメモSS

□NO.1201-1300
52ページ/110ページ

■to the end, bye-bye!

++++

 大学の補講というシステムに感謝したのは後にも先にもこの1回だけだ。いつもなら、せっかくの休みにどうして授業なんてやるんだ、そもそも休講にする意味が分からないと文句ばかり。
 だけど、どうせ毎週土曜日は昼放送の収録で大学には来るんだし、補講が2限ならそれが終わってもまだ12時だ。暗黙の待ち合わせ時間になっている午後2時には、昼食をとってもまだ余裕がある。
 食事を終えたトレーを食器返却口に戻したところで時間を確認しても、まだ12時40分過ぎ。することもないし、サークル室に行こう。そうしたら1時ちょうどくらいだろう。

 MMP昼放送の悪しき(と先輩方は仰る)伝統として「最終回のテーマは「恋愛」で統一すること」という物がある。春学期の最終回、秋学期の最終回と最大年2回。
 今日は菜月先輩とペアを組んでいる番組の最終回ということで、いつもなら次に使うCDを入れたケースと一緒に渡されるルーズリーフにも「テーマは察しろ」と書いてあった。
 そのルーズリーフには、どのCDのトラック何の曲をどうして選んだのか、どういう歌詞がトークテーマに沿っているのかということが事細かに記される。
 菜月先輩とは過去2回「昼放送の最終回」を迎えてきたけれど、今日が正真正銘の最終回だ。菜月先輩の意識も普段とは違うとわかるのは、ルーズリーフに「※本当の最後の曲は当日2人で決めましょう」と書かれているから。
 本当の最後の曲をどうするかは菜月先輩に委ねるとして、俺は俺で自分の持ち込む曲を考えなければいけない。CDもあまり買う方ではないし、手持ち音源の少なさがミキサーとしての弱点だ。

 午後1時過ぎ、サークル室には誰もいない。さすがの菜月先輩でも1時間も早くは来ないということを、最後にして知る。順序通りに機材の電源を入れ、適当なBGMをかけて。
 他のディスクを片っ端から漁って、何かいい曲はないかと考える。菜月先輩のトークを壊さない曲は。この作業もいつもは時間に追われながらやっているけど、今日は余裕だ。遅刻しないって素晴らしい。

 結局、俺の選曲を考えているうちに時間もアルバムもあっと言う間に進んでいた。待ち合わせ時間には割とすぐだし、曲も8曲目。
 それに気付いた瞬間、意識が音楽に向いた。テレビで流れて気になっていたけど、タイトルもわからなくてやきもきしていたところに菜月先輩が持ってきてくれたCD。俺にとっての思い出の曲。
 俺に恋愛という物を結びつけると、菜月先輩の存在は大きい。そんな菜月先輩との思い出の曲を選ばない理由はない。たとえ、彼女に本当の理由は言えなくても。この歌を2人で一緒に歌った記憶が蘇るんだ。

「ノサカ、早いな。どうしたんだ?」
「菜月先輩。おはようございます」
「しかしまた、粋な曲がかかってるじゃないか」

 時刻は2時に15分前。菜月先輩は俺の存在に一瞬驚かれたようだったけど、スピーカーから流れる音楽に柔らかい笑みを浮かべられた。ああ、先輩にとってもこの曲は「外してない」んだ。

「これを使うのか?」
「何となく流していただけですが、使いたいなと。AD作業はこれからです」
「それなら、最後の曲にしないか? それで、フルで流そう」

 その提案に頷かない理由がなかった。それだけ、菜月先輩にとっても思い入れがあるのかなと。思い出になる歌が、同じ歌だと嬉しい。少なくとも、この番組を終えれば「そう」なるのだけど。

「あの、菜月先輩」
「ん?」
「もしよろしければ、今日の収録の後でどこかへ行きませんか?」


end.


++++

僕の恋愛事情と台所じじょげふん ナツノサの昼放送最終回関連回。菜月さん的にはノサカが時間前にいてビックリしてるんじゃないかしら。
やっぱりこの時期はナツノサのこのテの話をやりたくなります。まあ、放送サークルが主な舞台のサイトなので許してくださいまし。
そして菜月さんの恋愛トークはどんな感じになるのかな。これまではラブ&ピースな毒吐き番組だったみたいだけど、果たして。

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ