エコメモSS

□NO.1501-1600
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■晩夏の亡霊

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 買い物から帰ると、同じように今し方帰ってきたのだろうLと鉢合わせる。駐輪場でばったりというのは別に珍しいことでもないが、終盤とは言え盆は盆。実家に戻らなかったのかと。

「あ、高崎先輩」

 俺の存在に気付いたのか、奴はぺこりと軽く会釈をする。確かに伊東が定例会の方もバタバタしててさーとかって言ってた気がする。昨日やっと落ち着いたよ、とも。

「L、実家に帰らねえのか」
「今行って、墓参りだけして戻ってきたトコっす」
「そんなすぐ帰れる範囲か」
「そっすね、山羽っつってもすぐ向島っすもん」

 立ち話も難だということで、荷物だけ玄関先に置いてLの部屋に上がり込むことになった。夏休みで、人と会う機会も限られる。特に意味はないが、ついふらりと階段を上っていた。

「定例会の方は昨日で落ち着いたんだってな」
「えっ、何で知ってんすか」
「昨日伊東から風呂行かねえかって誘われたんだ」
「あの後で動けるとかカズ先輩半端ないっすね」

 昨日行った銭湯での様子を思い返すと、ごく普通と言うか、疲れてるとかそういう様子は全くと言っていいほど見られなかった。強いて言えば壁から湯が噴き出すジャグジー系の風呂に長居していたくらいか。

「アイツ全然普通だったけど、結構ハードだったのか」
「祭が終わった後で普段と変わんなかったのってカズ先輩と朝霞先輩くらいじゃないすかね」
「朝霞? あー、星ヶ丘はやっぱ慣れか」
「レッドブル買ったつもり貯金始めるって言ってました」
「は?」

 MBCCで言うところの酒みたいなモンすかね、とLはバーカウンターと化している部屋の隅に手を伸ばす。今日はもう出かける予定もなく、外が明るかろうが飲んでやると。
 それなら俺もとごく自然になっていて、冷蔵庫にビールを探す。ないのなら別にリキュールでもいいが、やっぱ夏だしビールがいい。ないのなら別にリキュールでもいいが、炭酸がいい。

「でも、どうして日帰りだったんだ」
「明日、夏合宿の打ち合わせあるんすよ。ウチの班、お世辞にも状態がいいとは言えないんで」

 酒をちびちび飲み始めた瞬間始まった身の上相談だ。アナウンサー特別訓練でエージから聞いてはいたが、つばめ班は結構深刻なことになってんだな。

「青女の1年ミキの子が可哀想なことになってて。つばめと俺でフォローはしてるんですけど」
「そうか。まあ、あと10日くらいか。どこまでよくなるかはわかんねえけど、やれるだけやってみろ」
「そっすね」

 聞いてもらってあざっした、と新たに差し出されたピーチソーダ。確かに甘いモンは好きだけど、これはちょっと可愛らしすぎやしねえか。まあ、飲むけど。
 今でこそ悠々と過ごしているが、去年は俺もバタバタと走り回っていたことを思い出した。今のLとは状況も配属されてる場所も違うが、ひとつ終わったら次のヤマが絶え間なく押し寄せるあの感じだ。

「そう言えば」
「あ?」
「高崎先輩は実家に戻らないんすか」
「……戻ってどうすんだ」

 盆の始まりの頃、墓参りだけを済ませた。実家には立ち寄らずそのままこっちにとんぼ返り。アクアの散歩はしたかったが、実家にいるといろいろめんどくせえ。
 拳悟から届いたメールには、顔も見せねえであのクソガキめ、と爺が怒っていたという文があった。返信はしていない。顔見せるのは死んだ婆ちゃんで十分だ。

「何か食うモンねえか、L」
「あー、ちょっと厳しいすね」
「マジか。じゃあ取ってくるか」


end.


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お盆の高崎とL。実家にのんびりとは戻らなかった男たちのお話。そうだね、Lはイベント明けか。
みんなそれぞれいろいろと忙しく過ごしているようだけど、高崎はそうでもなく。ファンフェスを最後に表舞台からは身を引いたっていうことになっています。
実は、高崎はお婆ちゃん子だったみたいです。帰ってこいってよっぽど強く言われないと帰らないよ! 将来的には独立すると決めているのです。

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