エコメモSS

□NO.1501-1600
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■デスパレードも3度まで

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「うわあああやめてあげてえええ」
「いやあああああ」

 突如上がった悲鳴に、俺と浅浦は身を震わせた。何となくつけていたテレビは夕方のニュースを映し出す。悲惨な殺人事件で伝える中で、映し出されたのは被害者の卒業アルバムやSNSの書き込みなど。
 悲鳴を上げる慧梨夏とみなもさんにはその痛みがまるで他人事ではないかのように伝わっているようだ。その間も、テレビはSNSでの書き込みを延々と音読し続けた。

「死んでからも晒されるとか、2度殺されるようなモンじゃん!」
「ホントだねえ」
「うーん、うちが死んだと同時にウェブ上のデータ消去とパソコンが爆発するサービスってないかな」
「パソコンの爆発はともかく、ウェブ上のデータ削除はあるとか出るとか」
「マジで!」

 ウェブ上の歴史が真っ黒、あるいは人にはとても言えないような物の積み重ねであろう慧梨夏がいつになく真剣な顔をして死後のことを考えている。遺言状作っとこっかなと冗談でもない単語も飛び出す。
 ぎゃあぎゃあと対策を練る慧梨夏とみなもさんを後目に何を言うでもなくお茶を飲んでいた浅浦が、せんべいを個包装のまま4つに割りつつ口を開いた。

「結構前には文豪が残した恋文が見つかったってニュースでやってたけど、あれとはまた違うのか?」
「違うでしょ。ねえ、違うよねみなも」
「違うねえ。だって浅浦クン、文豪の恋文は文学史における資料だよ。解析すればいつの時期に書かれてどの作品にどういう影響を与えたかっていうのがわかるじゃん」
「確かに」
「殺されて世に出る黒歴史は被害者を晒し上げたいがための材料! それがイタければイタいほど殺されたのも仕方ないとか死んだ方が世のためって言われて2度ならず3度死ぬよ! 犯人に殺され、メディアに殺され、それを見た世論に殺され……ああこわいこわい」

 小さく割ったせんべいを口に運びつつ浅浦は、関さんにはこの人と違って黒歴史も少なそうだけどと慧梨夏を指した。テメー浅浦この野郎、人の彼女を担ぎやがって、と思ったけど否定は出来ない。

「むかしむかし、ネット上には半年ROMれっていうありがたいお言葉があったんだよ。でも半年ROMっただけでネット社会で上手く立ち回れるはずもないんですよう浅浦クン」
「つまり、ネットを覚えたての頃のヤバいヤツか」
「そう、しかも今よりも感情の制御が聞かない思春期のヤツがね…! ひいこわいこわい」

 今ならともかくそのくらいの時に上げた物が未だにどこかネットの海に漂ってると思ったら寒気さえするよね、と慧梨夏も激しく頷いた。当時使ってたレンタルサーバーのパスワードなんてもう覚えてないよ、と。

「カズさんも、放送サークルだし死んだら番組が晒されるかもしれませんよう」
「いや、俺はミキサーだしトークはしてないから別に――って、今年俺トークしてた! ヤバい! しかも高ピーに言われて作った同録MDどうしたっけ!」
「カズはともかく、浅浦クンにはさすがに晒されてマズいモノはないよね」
「いや、案外そうでもない」
「えっ、何かあるの!」
「さあな」

 俺が昼放送の同録MDの行方に焦っていた裏で、浅浦が意味ありげな微笑を浮かべていたことなど知る由もなく。何にせよ、殺されたり事故や事件に巻き込まれなければいいんだ。そればかりは運だ。


end.


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久々に緑大サブカル組が全員揃ったのだけど、誰のおうちで集まってたんだろうか。浅浦クン、お煎餅は小さく割って食べる派。
浅浦クンが晒されてマスいモノって言ったら美弥子サンと付き合ってた時の若気の至りくらいだと思うの割とマジで。
そしていち氏の番組、今年は喋ってる体だから晒されるだけの材料はそろってるね! それだと一緒にトークしてた果林も巻き添え食うねw

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