エコメモSS

□NO.1501-1600
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■個の道に情けは要らず

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「高崎、話って何?」
「ああ、秋学期の昼放送のことだ」

 手元には、MBCCメンバーの履修表或いは履修案のコピーとそれを照らし併せて作成した秋学期昼放送のペア案。今このタイミングで、俺と同じ3年アナの岡崎に話しておきたいことがひとつ。
 春学期はともかく秋学期の昼放送の持つ役割としては、1年のデビューと3年の集大成がある。2年は各々課題を見つけてそれに向き合う。ただ、月曜から金曜まで週5日、10人しか入れることが出来ない。

「もうそんな時期なんだね」
「単刀直入に言うと、俺はまだ迷ってる部分がある」
「珍しいね、高崎が迷うなんて。カズにも相談してるの?」
「いや、伊東とはまだ話してねえ。これは、お前に聞きたいことだ」

 昼放送の枠は5つ。そこにサークルの出席率や技術、授業の履修などの要素を考えて当てはめても人数が余ってしまう。何を隠そう、当落線上のギリギリのところにいるのが岡崎だ。

「俺らも秋学期でラストだろ。岡崎、昼放送やりたいか?」
「高崎はどうなの」
「確かに履修や何かのことを考えたら俺が入るのがベストだ。でもお前もやれるなら」
「そうじゃなくて。そういうのを抜きにして、純粋にやりたいかやりたくないか」

 実際、それも少し迷っている。ファンフェスを最後に表舞台からは退いて、MBCCのことに集中してきた。後進育成に懸けてきたとも言える。だから、秋は別に俺が出るまでもないと。
 岡崎が聞いているのはそういうのも抜きにして、純粋に俺が番組をやりたいかやりたくないかという、それ。いつの間にか、聞く側から聞かれる側に回っていた。

「そりゃやりてえよ」
「ならそれでいいじゃん」
「いや、お前は」
「俺は昼放送をやりたいかって言ったら、どうしてもやりたいワケじゃなくて聞いてたい方だから」

 俺はまた第1食堂のぼっち席でご飯食べながら番組聞いてるよ。そう言って岡崎は俺に道を譲った。確かに、情に流されるなんざ俺らしくもねえ。
 ペア案を書いた紙にあった岡崎の名前を傍線で消していると、思い出したように奴が大きな声を上げた。その目に灯るのは、まるで何かをひらめいたような、そんな光。

「高崎、昼放送はやんないけどひとつ頼んでいい?」
「モノによる。言ってみろ」
「学祭の枠は俺にもある程度欲しいな」
「何だ、そんなことか。お前を計算しねぇワケねえだろ」

 仮にも激動の時代を生き抜いたアナウンサーだ。まだまだ1・2年生よか安心出来る存在であることには違いねえ。MBCCで一番耳の肥えた男が作る番組の期待値は上がる一方だ。

「それで、ミキへのプロポーズが解禁されたら俺は真っ先にカズに行こうと思ってんだ。高崎、どうかここはひとつ」
「ソイツは約束出来ねえな。俺だって学祭は集大成だぞ」
「高崎はまだ昼放送があるじゃん」
「知ったこっちゃねえ。それとこれとは別件だ」
「それでこそ高崎だよ」

 迷いは吹っ切れた。今ここでの話を持って伊東との本会議に臨むことにした。仮にどうなろうとも後悔しないように。1年のデビューだの3年の集大成だのは関係ねえ。


end.


++++

今年は高崎と同じ3年アナのユノ先輩が登場したということで、こういう話もあっていいかなと思いました。大分前に考えてたけど、思い出してよかった。
5枠でエイハナに果林、高崎がいて名前のあるキャラは4人。本当はあと1人入れるんだけど、そこには2年生がいることになってそう。
またぼっち席でご飯食べながら番組聞いてるユノ先輩のお話なんかもやりたいし、ユノ先輩の色付き眼鏡についての話もやりたい。

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