エコメモSS

□NO.1501-1600
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■私欲のディスクワーク

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 私利私欲。まさにこの言葉に駆られた行動なのかもしれない。電気もつけず、誰もいないサークル室でただひたすらに綴る紙束。PC自習室で印刷出来る年間の枚数制限を少し犠牲にして。
 穴開けパンチで綴り用の穴を作っているのは、MDストックのリストだ。本来それをやるのは機材管理担当で、決してアナウンス部長の仕事ではない。
 俺が今綴ろうとしているのは機材管理担当が毎月増やしているヒット曲ではなく、俺の俺による俺のためのストックリストだ。自前のMDを持ち込むことに制限はない。手間暇をかけられるなら、だが。

「あれっ、高ピーじゃん早いね」
「うーす」
「何やってんの、電気もつけないで」

 ふらりと伊東がやってきて、サークル室に明かりが灯る。奴はどうやら俺の言動が不思議だったのか首を傾げている。そりゃそうだろう。ただひたすら、黙々と紙に穴を開け続けていたのだから。

「MDストックをよ、ちょっと」
「ああ、自前で?」
「ストックに趣味の曲がなきゃてめェで入れりゃいい、ってな」
「例によってかー」

 伊東が呆れたのは、そのディスクの枚数だろう。最近気に入ったバンドの旧譜や、それまでに作り置きしてあったディスクを一気に入れようとした結果だ。80分MD10枚なんざで足りるはずもねえ。

「てめェには迷惑かけねえよ。あくまで俺の私欲だ」
「うん、ストックリストも完璧に仕上げてくれてるし、高ピーの仕事には文句をつけられません」

 MDストックリストには、アーティスト名から曲名、アルバムタイトル、トラック毎のトータルタイム、イントロ・中トロの秒数、補足情報などを書かなければならない。
 エクセルで作られたテンプレートは歴代機材管理担当者に受け継がれている。どうして機材管理担当を経ていない俺がそれを持っているのかと言えば、例によって私欲にまみれた過去がある。
 1年の時も調子に乗ってストックを増やしまくっていたら、当時の機材管理担当だった咲良サンに「ストックを無尽蔵に増やすなら自分でAD作業をしてリストを出力しろ」と雷を落とされた。そして渡されたUSBメモリ。

「AD作業やらストックリストは咲良サンに雷落とされまくってるからな。今のMBCCじゃ俺の右に出る奴はいねえよ」
「高ピー、高ピーの方で作ってるリストだけど、学祭前にはLのと合わせなきゃいけないからね。覚えててよ」
「ああ、わかってる」

 ストックリストの統合は大学祭前。大学祭を以て切り替わるサークルの代で増えたストックリストの薄い束を、それまで蓄積された分厚い束にファイル上で統合する。そしてまた次の代のストックリストがゼロから始まる。

「あ、そうだ高ピー」
「ん?」
「MDストックを入れてくれるのはありがたいんだけど、ディスクの収納場所が少ないっていうことも知っといてくれると嬉しいな。というワケで今度MDの収納ケースを100均とかで買ってこようと思うんだけど」
「ああ、その辺は任せた」

 結局俺はただのアナウンス部長で、機材周辺に根深く残る問題なんかは全然わかっちゃいないらしい。今の俺のように、自分が番組で使いたい曲を無尽蔵に増やしてきた奴が築いたディスクの壁には思うところがある。

「いっそ家具屋とかでスライド出来る本棚みたいなの買ってもいいんじゃねえか?」
「高ピー、そんな大きな本棚を置くスペースなんてないんだからね」


end.


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私利私欲にまみれた高崎と、機材周辺のことなら高崎をも征することの出来るいっちー。いっちーもたまにはね!
どうやら高崎がMDストックを勝手に増やしまくっていたのは今に始まったコトではなく、咲良サンが機材管理担当だった頃かららしい。
高崎がINNER KINGDOMの組曲を曲ごとに秒単位でディバイドしてるのとかを想像するとなかなかにいいね。楽しいね。

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