エコメモSS

□NO.1501-1600
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■チキンorチキン

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「高崎クーン、いるー!?」

 インターホンを短く連打の後に、何度もドアを叩かれればキメようとしていた居留守も破らざるを得ない。外から聞こえる声の主は、恐らく引き下がることをしない。
 せっかく人がバイト上がりで気分良く飲んでたっつーのに。開けたばかりの缶ビールを手に、重い腰を上げる。ドアは相変わらず殴打され、外からは叫び声。

「さっきからうっせえ」
「あっ高崎クンいた」
「こんな時間に何の用だ」
「えー、まだ10時過ぎだよ」
「バイトなら深夜料金に移行してるな。用がないなら閉めるぞ」
「あー待って! 用事はあるの! 唐揚げ作ったから食べて!」

 夜も遅くに人の部屋に殴り込んできた宮ちゃんの手には、唐揚げの入ったタッパー。ただ、それを素直に受け取れるかと言えば、答えはノー。何故なら、俺は宮林慧梨夏の料理音痴を知っているからだ。

「お前が作ったなら食わねえぞ。命がいくつあっても足りねえ」
「カズが作ったって言ったら?」
「ありがたく食う」
「あっ差別!」
「黙れ。俺は昔お前が作ったモン食って2日寝込んだんだぞ」
「心配しなくてもうちはレシピを読み上げてただけだから!」
「は?」

 宮ちゃん曰く、この向かいの部屋がサークルの後輩の部屋らしく、学祭までの期間中はGREENsの拠点になるらしい(それはそれでこの女に押し掛けられる率が上がりそうで恐ろしいのだが)。
 毎年恒例となっている唐揚げを作る練習を、サークル終わりのこの時間にやっていたそうだ。さすがに夜も遅いし量を作りすぎたということで俺にお裾分けしようと思い立ったとのこと。

「本当にお前は食材に触ってないんだな」
「食材に触ったのは美弥子サンと学食でバイトしてる後輩クンです」
「じゃあありがたくつまみにさせてもらう」
「あっよく見たら今飲んでるんじゃん!」
「ビールに唐揚げとか最高じゃねえか」

 玄関先で立ち話をしながら気分良く唐揚げをつまませてもらうと、宮ちゃんはどこに隠し持っていたのか小さなタッパーを取り出した。その中身は液体のようだ。
 それは何だと尋ねると、宮林家の中華風ソースを伊東がアレンジしたレシピで作ったソースだとのこと。それでもやっぱり怖いのはこの女が調理に関わったのかどうかだが――

「お前は食材に」
「作ったのは美弥子サンです!」
「じゃあつけてみるか」

 やたらネギが多い中華風ソースのタッパーに唐揚げを浸してみると、これはこれでさっぱりとして美味い。唐揚げも1コ1コが大きいから、たまに味を変えるのにいいかもしれない。

「ネギソースもブースに置くのか?」
「うん。マヨネーズとかケチャップとか、簡単なトッピングは出来るようにしようかなって思ってて」
「でも、ネギの割合は考えた方がいいぞ」
「ネギの量は伊東家基準だからね。わかった。ネギの量は一般受け微妙、っと」
「伊東も割と薬味好きな方だと思ってたけど、姉貴はもっとなのか」
「美弥子サンは薬味狂だからね」

 それじゃあ貴重なご意見ありがとうございました、と宮ちゃんは向かいの部屋に帰っていった。ありがたいつまみを傍らに、俺は晩酌の続きを――

「高崎クーン!」
「何だてめェ何度も何度も」
「タッパーだけど、うちかカズに返してくれればいいからー」
「はいはい。もう来るなよ」


end.


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先にGREENsの唐揚げの話を書いてたので、鵠さん宅でお試しやってたらまあGREENsだし作りすぎて大変なことになるんだろうなあと。
高崎は慧梨夏の料理にそれはもう大変なトラウマがあるので慧梨夏の持ち込む料理には慎重。でもいち氏作なら喜んで食べるぞ!
と言うかネギソースを姉ちゃんに作らせたんならそら大変なことになるわw マイネギカッター所持よ

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