エコメモSS

□NO.1601-1700
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■精神へのカウンターアタック

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「ん?」

 見間違いでなければあれは青敬、青浪敬愛大学の長野で、アイツがどうして緑ヶ丘の学内を歩いているのか謎で仕方ねえ。そんな2限後の昼休み、ついに俺は幻覚を見るようになってしまったのか。

「あ、高崎。久し振り」
「長野? 本物か」
「本物だよ」
「何でお前がこんなトコにいるんだ」
「単位互換制度って知らない? 他校の授業受けれるヤツ」
「あー、何か書いてあった気ぃすんな」
「それで、緑大社会学部の文化人類学の授業取ろうかと思って。俺の専攻とドンピシャだったからさ」

 ここで会ったのも何かの縁だし学食を案内してよと言われれば、特に害もなさそうだし断る理由もねえ。何より、土地勘のない奴が歩くと迷う敷地だ。手伝ってやらないこともない。
 長野とは、去年の対策委員以来になる。元々インターフェイスの活動にもあんま出てこない青敬ということもあって対策委員が終わってからは疎遠になっていた。まさかこんなところで会うとは思ってもない。

「つか何で今になって単位互換制度なんか」
「って言うか逆に今くらいにならないと他校に行けるほど時間も取れなくない?」
「そう言われりゃそうだ。一理ある」
「俺は春をまるっと捨てたからまだ結構残ってんだけどさ」
「まるっと捨てた? お前、そんなサボるタイプでもねえだろ」
「4月とか5月? それっくらいから入院しててさ。それで春は捨てて療養生活してたってワケ。今も調子良かったり悪かったりするけど日常生活への影響はなくなったし。まあ、履修の受付自体は3月とかに済ませちゃってたから」

 大学に来ない理由が宮ちゃんだの武藤だのとはまた違う新たなパターン。語られた事情が思いの外(俺比で)重かったということもあって、次にかけるべき言葉が見つからなかった。
 長野は対策委員時代も割と淡々としてる方だったから、俺が何を言ったところで深くは気にしねえだろうが。でも間が持たねえし。入院とかガチなヤツ出してくんなよな。

「高崎は社会学部なんでしょ? 羽椛先生の他の授業受けたことある?」
「あ? お前が取ってんのってハカバか!」
「知ってる?」
「シラバス見た時点で絶対履修するかっつって真っ先に切った」
「えー、面白いのに」
「呪いだの霊的儀式だの、趣味じゃねえ」

 趣味じゃない、と言うかはっきりと言ってしまえば嫌いな部類に入る。そんなホラーだのオカルトめいたことを好き好んで見たがる連中の気が知れねえ。それを専攻にしている長野にしてもそうだ。
 長野に対する言い訳としては、俺の専攻からは反れているということを理由として挙げた。俺の専攻は安部ゼミでの現代コミュニケーション論であって、オカルトの要素は1ミリも要らねえ。

「――とまあ、そういう事情もあって俺は現社だけどメディ文の授業を結構取ってっし、アイツの講義は1コも取ってねえんだ。参考にならなくてわりィな」
「ううん、取り乱してる高崎なんてレアな物を見れたし、面白かったよ」
「てめェ誰が取り乱して」
「ほら」

 やっぱ、ホラーだのオカルトだのに関わる奴にロクな奴はいねえ。それを言うと相手の専攻だけにただのホラーやオカルトと一緒にまとめるなと言われそうで次の言葉が見つからない。

「高崎が面白かったって山口と石川に伝えなきゃね」
「長野てめェ調子扱いてっと物理的にぶっ飛ばすぞ」
「ああ怖い」

 腕っ節は弱いから勘弁してと言われても、俺には呪いの方があり得ねえし勘弁する理由はない。いつでも引き金を引けるように。油断は禁物だ。


end.


++++

こういう制度を使ってるキャラがいてもいいなと思った結果こんなことになった。全ては長野っちの専攻が悪い。高崎の弱点ピンポイントだもんなあ。
高崎はホラー・オカルト嫌いなのでシラバスを見た瞬間目を背けて履修候補から除外したよね! ゼミ以外の授業にしても結構おどろおどろしかったらしい。
高崎は多分長野っちに学食とか学内の施設とかも少し案内してあげたんだろうなあ。だといいなあという願望である。

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