エコメモSS

□NO.1601-1700
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■夢と拷問は手厚く熱く

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「おうユーヤぁ、これ、お前の分の衣装なー」

 バイト先に入るなり結構な速度で弧を描きながら飛んできた赤くて三角のものに、今年もこの季節が来たかと戦々恐々とする。厳密には三角すいと言う方がいいかもしれない。
 ピザ屋でバイトを初めて3年目になるけど、未だに季節性アイテムを身につけることには慣れない。何の遊び心かは知らないが、配達するときに軽いコスプレをしなければならないのはどうなのか。
 それなら、冬は寒いしインストアを希望すればいい。だけどインストアは主婦だの女子だのシルバーだので埋まっていて、男は基本配達に出なければならない。車と二輪、両方の免許を持っている俺は尚更。

「長谷川サン、随分とノリノリだな」
「俺くらいになると何でも似合うからな」

 俺に赤い三角すい、もといサンタ帽を飛ばしてきたのは年は2コ上でフリーターの長谷川正道。音楽系の専門学校を出ていて、今はバンドで細々とライブをしつつプロを目指すギタリストだ。
 長谷川サンは小柄で髪が長い。顔も整った女顔。下手すりゃそこらの女よりも女としてモテるだろう。そりゃあお前は何をやっても似合う。と言うかてめェだろイベントに乗じて何でもかんでも付けさすの。

「つかこの時期だからって何でこんなのかぶる必要があるんすか」
「ピザ食うのって主にファミリーだろうがよ、ファミリー。夢を与えねーでどーする」
「百歩譲ってクリスマスイブと当日はそうだな。でもこの辺だとSサイズ1枚で走らす一人暮らしの学生も多いだろうがよ」
「あァん? ユーヤてめェ文句あんのか」
「大有りだこの野郎、やりたきゃてめェひとりでやってろ」

 制服に着替えつつ飛ばす火花。あーさみィ。冬空の下を歩き回るとか拷問にも等しいだろ。つか冬は冬期手当とか出てもいいくらいだ。でも光熱費のためには頑張らなければいけない。

「あ、そーだユーヤお前今日原付な」
「はあ!? 何言ってんだてめェふざけんな、まだ車あるだろうが!」
「ざーんねん。ラストのキーはもう俺がキープしてんだ」

 チャリチャリと音を鳴らしながら指先でキーを回す様子がまた腹立たしい。この極悪女男、いつか絶対ぶっ飛ばす。つかマジでもう車ねーのかよ、もう1台買おうぜ車。
 建物の中に入った瞬間キーを確保しないお前が悪いと言われれば、反論の余地がねえ。制服に着替えて出ていく瞬間にキーを確保する習性が仇となっている。

「つかユーヤお前さっきから先輩に対する態度っつーモンがなってねーな。先輩に敬意を払え、敬意を」
「てめェに払う敬意なんざねえ」

 これ以上反抗するのもめんどくせえし、キーを奪える気もしない。車で行くのは諦めて、原付仕様の重ね着で行くことにした。冬は原付手当っつーのももらいたい気分だ。

「待てよ? 原付っつーことはサンタ帽はかぶんなくていいのか」
「玄関で客と対面するときはかぶっとけよ」
「マジかよ。つーかそこまでする必要があんのか」
「需要があんだよ、需要が」
「あ? 需要? つかその表現どうにかなんねえのか」


end.


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長谷川さん初登場。これから絡ませたいキャラがあと2〜3人いたりするとかしないとか。とりあえず1回出したので布ー石ー
そして今回は終始やられっぱなしの高崎である。長谷川さんもまた一筋縄ではいかない人である。2コ上、23歳。ナノスパの23歳はロクでもねえのばっかだもんなあ……(星大方面を見ながら)
おおよそ10日ほどのクリスマス仕様だけど、高崎にとっては苦痛やら拷問以外の何物でもなかったりする。

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