エコメモSS

□NO.1601-1700
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■未来は流星になって

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 カチッ、ゴロゴロとその人の手元はせわしない。一応繁忙期だが、夜9時前ともなれば人は減り、ネットサーフをする時間も生まれる。オレも自習室の閉めの作業を川北に頼み、事務所に戻れる。

「あ〜、やっぱり時代は宇宙だ」
「今度は何です?」
「これを見ろリン、これは破格だぞ!」
「ほう、宇宙葬ですか」

 値段にして22.9万円。その気になれば学生だって手が出ない価格ではないところが余計この人の宇宙への憧れを擽っている。元々、私は死んだら宇宙葬を希望するとは言っていた。
 ゴロゴロとマウスのホイールを転がすその手をマウスから剥がし、画面のスクロールを強制的に止めた。何しやがるともらう睨みも無視。ページに書かれている説明文を読ませろ。

「ほう、打ち上がったカプセルがどこにいるかをアプリで見られるのか」
「一昔前のSFがサイエンスリアルになってんだぞ」
「これは非常に興味深い。ここまで安価に打ち上げられる仕組みやこの技術をもっと詳しく知りたいな」
「そうだろうリン、これは非常にロマンがあると思わないか」
「ええ、これに関しては同意ですね」

 そんなことを話していると川北も戻ってきた。閉めの作業が終わったらしい。事務所に入るなりびっくりしているから何かと思えばオレと春山さんがにこやかに談笑しているから何かと思った、だと。
 ただ、その不気味な事象の原因も春山さんの開いているページの背景を見て察したのか、やっぱり宇宙ですよねー、といつもの暢気な顔に戻った。

「でも春山さーん」
「ん?」
「宇宙葬をしたい人が増えてびゅんびゅん打ち上げてたらすぐ軌道がぎゅうぎゅうになっちゃいません? 何か、大事な衛星の邪魔になりそうです」
「いや、ある程度回ったらその後は流れ星になって燃え尽きるぞ」
「本当に星になるんですねー!」

 比喩表現じゃなくて本当に星になるなんてヒトの言うことは結構実現しちゃう物なんですねー、などと感心している川北は実に無邪気で、春山さんも毒気を抜かれているように見える。
 確かにサイエンスリアルだ。22.9万円というのはここでのバイト229時間分。1日6時間計算で行くと休みも含めて2ヶ月もあれば実現出来てしまう時代。

「きれいだろうなー、ロケットの中に積んである物次第で流れ星の色が変わったりするんですかねー花火みたいに」
「そういうのはリンの管轄だな」

 流れ星の色を変えるというのは正直考えたこともなかった。だが、もうしばらくすれば宇宙に飛ばすのではなく宇宙に行って葬式をあげる時代も来るだろう。尤も、流れ星の色を変えるというのも不可能ではないかもしれん。
 人の想像し得る範囲のことは実現出来るのが科学であり、真面目な顔でとんでもないことを言い、やり遂げる阿呆もいる。少なくともオレはそうありたい。このオレに不可能はない。

「もし色を変えれるんだったら俺はミドリなんで青か緑色の流れ星になりたいですねー」
「流れ星の色を変えられるなら川北が宇宙建築家として頭角を現すかもしれないし、何が起こるかわからないぞ」
「地球でもまだまだなのに宇宙建築ですかー!? あーでも宇宙も事故が多そうですね、今のうちから宇宙住宅についても考えた方がいいんですかねー」
「川北、これから春山さんが流れ星になるそうだから願いを唱えるといい」
「えっ」
「リンてめェこの野郎勝手に殺すな」


end.


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春山さんが宇宙にロマンを馳せてるだけの回。春山さんが希望するのは宇宙葬である。あと12年もすればもっと安くなってるだろうね!
そして今回のリン様は話題が宇宙だからか春山さんに対してもあまり噛み付かないと見せかけてラストにやらかしてますね。リン様マジリン様
もしミドリが宇宙建築家になったらとか夢がでっかいね! でも夢はでっかいくらいがちょうどいいね!

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