エコメモSS

□NO.1701-1800
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■まわりつづける

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「ふわああ」
「伏見、アクビデカすぎ」
「あっ、ちょっ、えっ!? 朝霞クン!?」
「誰も来ないと思って油断してただろ」

 大学は春休みで、学部の研究棟も閑散としてる。こんなときに人なんて来ないよなあと思ってレポートついでにサークルの仕事もしていたら。人が来ちゃったよ! 何で!
 ――って、アタシに課題が出てるんだから同じゼミの朝霞クンにも課題が出てるワケで。ゼミ室で鉢合わせるだけならよかったんだけど、ヨリによって大アクビの瞬間を見られちゃうなんてツいてないなあ。

「ちょっと息抜きのつもりだったの」
「ふーん、何やってたんだか」
「そりゃレポートの」
「参考文献の位置」
「あれー、遠いなー、本に足が生えたかなー」
「別にいいけど。俺もよくやってたし」

 アタシこと伏見あずさは映画研究会に入っていて、自主制作映画の台本や絵コンテを書くことがある。今もその作業中。本題はあくまで課題レポートのための調べ物だけど、その辺はご愛敬。
 そして、着ていたカーディガンを脱いで肩に掛け直した彼、朝霞クンは放送部に入っている。何でも、プロデューサーとして班のステージの構成から台本まで1人で全部書いていた、と。引退した今では過去形。

「人が来ないってのはデカいよな。図書館だと人が多いし案外静かでもない」
「そうなんだよね」
「お前の誤算はここに俺が来たことだけど、俺には俺の目的があるから終わるまではいるからな」
「別に、どうぞ」

 むしろ、いてもらった方が作業が進むか進まないかは別にして、気分は上がるしいいんだけど。何て言うか、人がいなさすぎると一度切れた集中力を戻すきっかけもないし。

「はあっ」
「今度はため息か」
「台本にオッケーが出なかったらどうしようと思って」
「もう1回書けばいい」
「簡単に言うけどさあ」
「映研なら何度かやればパスするだろ。それでなくてもお前の台本は良くも悪くも誰も傷つけない」
「放送部は」
「他の班のことは知らないけど、俺が書いたモンは全没とかザラだ」

 放送部に関してはあまりいい話を聞かない。ステージは見栄えするけど内情は陰湿だって。それでアタシは映研を選んだ。イジメとか嫌がらせをされたらイヤだなあと思って。
 アタシは朝霞クンを、つくる人という意味でとても尊敬している。絶対に妥協は許さないし、ある物を最大限に生かす能力もすごい。そして、書いた物をやり抜く意志の強さ。

「1つ書くのだってキツいのに、全没にされて辛くなかった?」
「そりゃ辛いさ。好きだからやれるとかそういう感じでもない。手を止めたら死ぬ。それっくらいの感じだな」
「マグロか! でもさあ、酷すぎるよ」
「連中には連中の言い分がある。奴らが隙を見せたときに、いかに矛盾を突いて台本を通させるかだ。引いてダメなら押す。押してダメならもっと押さなきゃ道なんか出来ない。別の道を模索出来るほど器用じゃねーんだ、俺は」
「朝霞クンらしいね」
「ステージは人が作ったモンだ。そこに辿り着くには獣道を掻き分けるんじゃダメだ。俺たちが、俺たち自身の手でステージまでの道を切り開く必要がある」

 ステージの話をさせると長くなるのも相変わらずだけど、「らしい」な、やっぱり。でも、これが始まるとま〜あ話が長くなる長くなる! 今はまだマシだけど、飲み会だったら手に負えないからね。

「よし伏見、飲みながら台本を書く苦労について話すか」
「朝霞クン、ここにいる本題覚えてる?」
「それどころじゃない」
「ダメだこりゃ」


end.


++++

ベティさんのお店で大泣きしていた伏見あずさ嬢、どうやら朝霞Pと学友の様子。春休みなのでいくら就活がどうこうと言っていても課題の一つや二つ出ているだろうと。
星ヶ丘の映画研究会に在籍しているらしい。放送部には興味があったものの、いい話を聞かなかったので入らなかった体。
でもって、台本にオッケーが出なかったら「もう1回書けばいい」とサラッと言っちゃう朝霞P。さすが、場数が違うぜ!!w

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