エコメモSS

□NO.1701-1800
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■羽毛の誘惑

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「高ピー高ピー、ちょっといい?」
「あ?」

 伊東が俺に聞きたいことがあるから何かと思えば、それは布団についての話だと言うからちょっと興味が沸く。俺は外にも出向くが寝ることが主な趣味で、寝具にはちょっとばかりこだわりがある。
 別に、マットレスはどこのブランドの何で統一しなければならないとかそういうことではないが、少なくとも枕はオーダーメイドにしなきゃいけねえと思ってるし、布団は定期的に干す。
 最たるルールはベッドは聖域というそれだ。要は他人を決して上げないということ。たまに菜月なんかが勝手に上がってたけど、上がるのは百歩譲って手に持っていたチューハイの缶は没収した。
 それだけ寝ることに気合いを入れて。休日は半日以上世話になるベッドだ、メンテナンスも欠かせねえ。それを知った上で、伊東は俺を相談相手に選んだのだろう。

「布団クリーナーって持ってる?」
「あるけどどうかしたか」
「気になってんだけどCMって盛ってそうじゃんね、高ピーなら持ってるかなーと思って聞いてみたんだけどあれって実際どうなの?」

 近年、布団の上を滑らせてダニやハウスダストを吸引するタイプの布団クリーナーが頻りに売り出されている。俺も当然それは気になっていた。何せ、外に干さなくてもよくなるかもしんねえってんだろ。
 伊東は重度の花粉症を煩っている。でもって、それが過ぎれば梅雨が来て、洗濯物もロクに干せねえってんで除湿機と加湿器の機能を含めた空気清浄機を奮発しやがる男だ。コイツもコイツでこだわりは強い。

「布団干すのも地味に手間だし、布団クリーナーがあればラクになるかなーと思ってさー」
「なるほどな。家ん中でキレイした気になれるっつーのもデカいな」
「でしょ」

 よっぽど使ってみたいなら貸すぞと勧めれば、食いついてくるのもまた早い。やっぱり買う前にある程度の使い勝手を知っておきたいというのはわからないでもない。

「ただ、使った上で思うのは俺はやっぱ太陽光派なんだよな。いくら機械の性能がいいっつっても」
「へー、どうして?」
「布団を取り込んで、程良くぬくまった布団に飛び込むのが布団干しの醍醐味で幸せの瞬間だ」
「お日様の匂いってヤツだね」

 太陽の下で干してた布団を取り込んで、程良くぬくまった布団に1回飛び込んで、本格的に寝ちまう前にベッドメイクをするだろ。それで出来上がったベッドで昼寝するのが贅沢だ。

「菜月と話してて、俗に言うお日様の匂いの正体がダニだっつーのを聞いた時には野坂を殴ってやろうかとも思ったくらいだ」
「え、何で野坂?」
「あの偏屈理系男が菜月にそう触れ込んだっつってよ。ダニだろうが何だろうが幸せならいいじゃねえか何でも」
「って言うか、お日様の下で干してから布団クリーナーでゴミを吸えば完璧じゃない?」

 しまった、その発想はなかった。布団を取り込んで、1回飛び込んで、ベッドメイクをして昼寝するその前にクリーナーをかければよかったんだな。マジで気付かなかった。

「そういうことだから悪い伊東、布団干しに帰る」
「えー!?」
「あ、あと、クリーナーに感動するのは最初の1回だけだぞ」
「ちょっとー、高ピー!」

 そうとなったら善は急げ。今ならまだ布団を干すには遅くない時間だ。昼寝の誘惑の前にクリーナー、昼寝の前にクリーナー。


end.


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暁を覚えない男と花粉対策で忙しい男の布団対談。高崎は布団クリーナーとか余裕で持ってそう。あと枕は地味にオーダーメイド。
いち氏はこの時期絶望的に布団を干せないので何とかしたいと思っていた模様。CMで見る度にいいなーって思ってそう。
と言うか偏屈理系男の影www 菜月さんにいろいろと説いた結果話を聞いてもらえてそうだけど最終的にローキック受けてるといいよね!

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