エコメモSS

□NO.1701-1800
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■マウント・サーフ

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 就職活動がどやこや。合同企業説明会通いが始まったよね。嫌ほど見るスーツの中に、真新しいときめきを探すこの感じ。多少腐ってようが生命力に溢れてるうちが華だよね。
 人の波を掻き分け、波の弱いところで少しの休憩を。この中ではちょっと立ち止まることすらも許されないような、そんな雰囲気がある。スペースはあるけど休憩するにも一苦労。
 ざわざわと、周りの音が全部掻き消されてるあの感じ。同人イベントの方で慣れといて良かったかもしれない。それと比べるなってカズには叱られたけど、そうとしか例えられないし。
 まず、この人の多さに圧倒されないことだとか、人酔いしないとかっていう状況も同人イベントで鍛えられてるという解釈をしたっていいと思う。ポジティブに行きたいよね。

「ふう」

 隅っこのベンチで休んでいると、隣に男の子が腰掛けてくる。大きな溜め息だ。やっぱりみんな疲れるには疲れるみたい。膝の上にカバンを乗せて、もらった資料や戦利品の整理が始まる。
 あ、このパンフうちももらったや。あの色鉛筆も。興味ある業界が似てる感じなのかな。まあ、これだけいればねえ。似たようなブースを回る人くらいいるよねえ。さーてケータイケータイっと。

「あっ、すいません」
「こちらこそゴメンナサ――」

 さーてケータイケータイと動かした右手が隣の男の子の肘とぶつかって、謝り合った瞬間だった。「あっ!」と揃った声に、恐る恐る指さす互いの左手。
 前に業界セミナーで席が隣になった星ヶ丘の男の子だ! そりゃもらってるパンフも似るよねえ。あのときはまだ寒かったからキャメルのダッフルコートを着てたけど、さすがにもうコートは要らないか。

「前に業界セミナーで会いましたよね? キャメルのダッフルで」
「あ、ポニテに指輪。会いました、久し振りです」

 会ったことがあると分かれば話は弾む。声が周りに掻き消されるし、距離も自然と近くなる。あれから現在にかけて、どんな過ごし方をしてたかというような話が中心。
 就活セミナーがどうという話はみんな似たり寄ったりだし、別に聞くまでもないよねと少し話したところで辿り着いた。次に気になるのは、互いの人となり。でもこのままだと身の上話で今日が終わりそう。

「何か、うちらこれからも縁がありそうなんでメアドとか交換しときませんか?」
「あ、いいですよ。じゃあ俺が受けるんで」
「了解でーす」
「おっ、来た来た。宮林さん。これ、下の名前何て読むんですか」
「エリカです」
「あー、そう言われれば読めますね。じゃあ俺も送ります」
「はいほーい」
「ほっ」
「オッケー。えーと、朝霞クン」

 またどこかで会ったらよろしくお願いしますと互いにぺこり、としたところまではよかった。顔を上げた瞬間、何かを思い出したのか朝霞クンがうちに確認してくるのだ。

「ところで、確か学生のうちに結婚するって」
「言ったね。結婚する予定ですね」
「だとすると、名字変わる可能性の方が高いですよね」
「変わりますねえ」
「それなら、今のうちに彼氏さんの名字でアドレス帳に登録しといた方が、後々の手間を考えると効率的な可能性が」

 ちょっと、こんなところでいきなりそれぶっこんでくる!? 高崎クンや浅浦クン以外に伊東慧梨夏どうこう言ってくる人がいるとは思わなかったから油断してたよ!

「そのときになったら旧姓宮林でメールしますんでっ!」
「後学のために結婚に向けて具体的にどう動いてるのかっていうのを聞きたいです。奢るんでそこのファミレスとか行きませんか、何なら家事が完璧な彼氏さんも呼んでもらってぜひインタビューを」
「あ、えっと、彼氏さんのご飯が待ってるので今日は勘弁して下さい!」


end.


++++

そうだね、エとカなら慧梨夏といち氏がアドレス帳で並び合う可能性も結構高いからね伊東で登録しちゃうとw
まさかのポニテとダッフルの再会とかいう悪乗り回。3年生の就活シーズンの話も積極的にやろうとした結果である。
「ポニテで指輪でエリカさんてそれ伊東の彼女じゃないのかい、ははは」「まさかな」というような話を圭斗さんとしてると楽しい

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