エコメモSS

□NO.1801-1900
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■ホールケーキとレインドロップ

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「やっぱ真昼から飲むのって最高すよね」
「間違いねえ」

 そうだ、飲もうと思い立てば、真上にあるLの部屋を訪ねる。例によってコイツの掃除の音で起こされ、否応なしに俺も朝から活動させられた。
 生温い風が部屋を通り抜け、少しずつ夏に近付いていると実感させる。もっと暑くなればビールはもっと美味くなるだろう。それはそれで歓迎されること。
 梅雨の晴れ間ということもあって、ベランダには洗濯物が泳いでいた。かく言う俺も、久々に布団を干してきている。布団クリーナーもあるが、やっぱり日光に勝るものはないと思う。

「やっぱ今日は洗濯だよな。俺も布団干してきたし」
「まあ、カズ先輩みたく天気関係なくやれる環境でもないっすからね」
「アイツ、宮ちゃんと付き合ってなかったらマイルールが厳しすぎて絶対結婚出来ないタイプだぞ」
「その前に彼女さんがいなかったらそこまで目覚めてないんじゃないすか?」
「それもそうか」

 伊東の部屋には除湿機と加湿器の機能のついた空気清浄機がある。これは奴の持病である花粉症対策のためにウン万する物をポーンと買いやがった物。
 除湿機を使えば部屋干しでも洗濯物はそれなりに早く乾くし嫌な臭いも抑えられるとか。最近は菌だの洗濯だのの話題がテレビでも特集を組まれていて、奴はそれにかじりつく。
 その結果が伊東宅に迎えられたアイロンだ。何でも、濡れた状態のバスタオルだの衣類だのにアイロンをかけると殺菌効果がナントカで、詳しくは聞かなかったがとにかくアイロンを買ったらしい。

「でも、高崎先輩もカズ先輩のことは言えないっすよね」
「あ? アイツは異常だけど俺はそうでもねえだろ」
「布団クリーナーとか布団乾燥機なんて普通学生の1人暮らしの部屋になくないすか?」
「普通用意するだろ」
「しないっす」

 結局、生活の中で何を重んじるかというところだとは思う。もっと言えばLの部屋にだって学生の生活の域を超える掃除道具が揃えられている。
 伊東は洗濯に、俺は寝具に、そしてLは掃除に対するこだわりが強いだけで、逆に言えばそれは学生だからこそ出来る己の城のカスタマイズ。

「何か、風の質が変わった気いすんな」
「雲も流れるのが早いような」

 雲がやけに早いので、雨かもしれない。そんなフレーズがメロディーと共に思い出され、雲と一緒に流れた。そして、さほど経たないうちに垂れ込める重い雲。

「あーっ!」
「ちきしょ、雨かよ!」

 ひとしずくの雨がポツリとベランダに模様を作ってからは一瞬だった。開け放っていた窓からは斜めに降り注ぐ雨が部屋に入り込むし、干していた洗濯物は濡れる。
 そして俺も自分の部屋に駆け込んだ。干していた洗濯物は別にどうだっていい。濡れたところで洗い直しゃいい。だが、何においても布団を守らなければ今日の安眠はない。

「高崎先輩、どうでした」
「……L、マジで涙がこぼれそうだ」
「ダメだったんすね」
「布団……」
「高崎先輩! 布団も丸ごと洗濯出来るコインランドリーとかあるんじゃないすか?」
「何もする気力が湧かねえ。そもそも酒飲んだから乗り物は運転出来ねえし」
「えーと……あっ、そうだ、五島を招集しましょう! 緊急事態っすし、きっと来てくれるっすよ!」

 結局、わざわざエリアを越えて招集された五島の車で布団をコインランドリーに運び、事なきを得た。後日、俺が五島に菓子折りを渡したのは言うまでもない。


end.


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ゴティ先輩向島エリア外の人なんだけど、パッと思いつく車持ちがなかなかいなかったので招集された模様。高崎が使い物になってれば慧梨夏辺りが呼ばれたんだろうけど。
梅雨のお布団戦記。高崎にとって命にも等しいお布団が雨に濡れてしまったので、それはもう。布団乾燥機を出してくる気力もないとかどんなだ。
そして洗濯大好きいち氏、テレビなんかで見たお洗濯の方法はとりあえず試してみる模様。アイロンもわざわざ買ったよ!

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