エコメモSS

□NO.1801-1900
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■白夜の流星

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 アイツを探す時は、駐輪場か喫煙所。それが一番早い。今にしても、うっすら立ち上る煙の方に、ほら。

「高崎。待たせたか」
「いや、そんなに待ってねえ」

 授業が終わって、待ち合わせ時刻ちょうど。高崎はうちの姿を確認して、手にしていた煙草を吸い殻にした。始まるのは、これからどうするという話。
 ここは向島大学のスクールバスが回る駅で、ノサカとか、電車通学の学生はここをよく利用している。普通に考えれば高崎がこんな場所にいることがおかしい。
 去年ほどではないにせよ、たまに連絡は取り合っていた。その流れで、久し振りにご飯でも食べないかという、たったそれだけのこと。

「つーかこの辺りホントに何もねえな」
「再開発中なんだ」
「じゃ、そのうちスーパーでも出来るか」
「卒業するまでに出来ればいいんだけど」

 違いねえなと高崎は笑って、うちにヘルメットを手渡した。そうなるだろうとは毎度のパターンでわかっていたから今日は髪を結んでいない。
 ご飯を食べるという言葉には、いろいろな意味が含まれていると思う。今は4限終わりでまだ5時にもなっていない。夕飯には早すぎる。
 夕飯を食べたらそれで終わりなのか? いや、その辺は言っても学生だ。ノリと勢いが自分たちをどうさせるかは、そのときになってみなければわからない。
 起こり得る事態への想定は少しだけしてある。例えば、夜が遅くなりすぎることを見越してメガネをカバンの中に潜ませている。

「菜月、この辺で飯時まで時間潰せそうなカフェとかねえか」
「それは知らないな」
「ま、何もゆっくりするだけが時間の潰し方でもねえしな。この辺の探索でもするか」

 どこへ行くでもなく、ビッグスクーターは動き出す。晴れてよかった。これで雨だったらいろいろな意味で悲惨なことになっていただろうから。
 もし雨だったら移動手段は電車になっていただろう。そうなると、箱モノアレルギーのこの男は顔面蒼白だろうし、うちも人のことを言えない。
 普段は電車で行けるところしか行かないし、たまに圭斗の車に乗ることはあってもこんな風に目的もなく走ることはない。これはこれで新鮮だった。

「あっ」
「何か気になったか」
「何だあれ」
「あー、輸入雑貨とか、輸入食品とかか」
「見たい」
「寄るか」

 少し怪しい雰囲気の店に入ってみると、暗いし、BGMは禍々しいしで恐怖を煽られた。何か出て来るんじゃないかと恐れずにはいられない。高崎の腕を掴み、踏み出す一歩は震えつつ。
 そうやってゆっくり見ていると、よく行くごく普通の輸入食品の店にはないような物もあって心は躍る。高崎は高崎で、自分の吸っている煙草が置いていてご機嫌なようだ。

「あ」
「うおっ、何だ菜月急に引っ張るな」
「あのブーツとサンダル。かわいい」
「買わねえぞ」
「うちを何だと思ってるんだ!」
「散々集られてるから先に釘を差しただけだ」

 さすがに1万円もするブーツや6千円もするサンダルは買えなんて言えるはずはない。500円のシャーペンならともかく。
 結局、店の割引キャンペーンの都合やら何やらで、高崎の煙草と一緒にシャーペンを会計してもらう。財布を探そうとすると、それを制される。

「ほら菜月、シャーペン」
「これに関しては、集ってないぞ」
「わかってるよ。結果割り引かれて得したから問題ねえ」
「それなら、お言葉に甘えて」
「じゃ、次行くか」

 再びビッグスクーターは動き出す。このまま真っ直ぐ行くと、街の方に出る。また、ちょっとした道に面白い場所があるかもしれない。これも、冒険か。
 淡々と時間が過ぎているとか、明日が来るという感覚は消え去っていた。体感としてはとてもゆっくりとした時間の経過で、日が落ちないんじゃないかとすら思う。
 この時間が一瞬なのか永遠なのかはわからない。だけど、このままずっと、こうやっていられるんじゃないかって。そんなことを思ったんだ。


end.


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この季節のお約束みたいになってる七夕高菜のおデート。向島エリアでは晴れたという体で。
菜月さんがかわいいと思ったブーツやサンダルは当たり前のようにピンヒールなので高崎からすれば凶器という意味合いで苦い思い出がよみがえるのであった
高崎は一度走ったら大体道を覚えるので、もし煙草を買うのに都合がよければたまーにふらっと現れるんだろうな、こういう店に。

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