エコメモSS

□NO.2201〜3100
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■ゴーイング・クラフト・ウェイ

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「徹、よかったら、これ……」
「ん? なんかラッピングが豪勢だけど、どうした」
「少し早いけど、誕生日、だから……」
「そういやそうか。ありがとう。開けてみても?」
「……どうぞ」

 そう言えば明後日は俺の誕生日だったなあと思い出すのは、美奈から丁重な包みを受け取ったとき。包みを開くと、中からはポーチが出てきた。
 男がポーチというのもなかなかどうかと思うけど、デザインは俺好みのシンプルなモノトーン調で、柄もいい。女子はポーチが何個あっても困らないと美奈は言うが、さて男はどうする。

「一応、マスクケースのつもり……」
「ああ、冬だからか」
「徹は、マスクをする……需要はあると、思った……」

 11月にもなるとインフルエンザ対策も考えなければならない頃合いだった。沙也は受験生だしもしもがあってからでは遅い。特に俺はバイトも不特定多数との接触のある飲食業だし、警戒しすぎるということはないだろう。
 それを理解してくれた上でのマスクポーチという贈り物は非常に有り難かった。よくよく見ると外側にはポケットティッシュを入れるケースも付いているし脇のポケットにはコンタクトレンズやリップクリームを入れてもいいというようなことだそうだ。

「そう考えたら冬は小物が増えるしこれは純粋に嬉しい。美奈、ありがとう」
「それと、もう1枚は、沙也ちゃんに……」
「わざわざ沙也の分まで用意してくれたのか」
「沙也ちゃんにも、マスクはさせる……でしょ…?」
「重ね重ね、本当にありがとう」
「そう言ってもらえると、作った甲斐があった……」
「ん? まさかこれって美奈の手作りか」

 美奈はこくりと頷くと、市販のものだとなかなかいい柄がなかったから、と言う。柄もそうだけど、ティッシュケースや小物のポケットまで付いたものとなると。ないなら作れと言うけれど、それが出来るのが美奈の強みだ。手芸が趣味だとこういうときに強い。
 先日、美奈はハンドメイドイベントに出展してきたそうだ。このマスクケースと同じものの柄違いを出したら、季節柄もあってよく売れたとのこと。そして、美奈の何が恐ろしいって、好みの柄の布がなければ自分で描いて発注してしまえと強行突破するところだ。なかなかの力業だと思う。意外に脳筋と言うか。

「野暮なことを聞くけど、これはいくらで?」
「これは、2000円……」
「確かにちょっといい値段だけど、布から作ってるしなあ。それに、多分だけど、美奈のことだから沙也の方のファスナーに付いてるチャームとかもレジンでやってるんじゃないか?」
「正解……」
「って考えると妥当だな。えっ、それを2枚ももらってしまっていいのか」

 2000円に設定したマスクケースを俺と沙也の分と言って2枚もくれたけど、いくらなんでも4000円相当の物を誕生日と言え、淡々ともらってしまうのは少々気が引ける。ハンドメイドだからとかそういうことでもない。
 俺だって曲がりなりにも物を作る側の人間だから、ジャンルは違えど作る苦労などはわかるつもりではいる。俺の側で例えると、2000円の本を2冊ももらってしまうとか恐れ多くて震えるぞ。

「気に病むようであれば、お願いがある……」
「内容にもよるけど、聞いてみようか」
「私の弱点は、機械類……私の線では、硬質な機械が、それらしくならない……」
「なるほど? 描けばいいのか、布地になりそうな絵を」
「徹の描く世界観は、私にはない……コラボ商品を、作ってみたいと思って……もちろん、売れたらその分は出す……」
「パーカーとかはどうだ? 俺がプリントの絵を描いて、美奈がパーツを作って、的な」
「……面白そう……」

 機械肢のタイツなんかも作りたい、と美奈の方も夢が広がっている。あれっ、いつの間に俺もこんなに乗り気になってるんだろう。まあ、元々イベントでスペースを取ったりすることに対する抵抗はない方ではあるけれども。
 美奈がさっそくノリノリで、次はどのイベントに出ようかということを考え始めてるんだからやっぱり力で押していくなあとか、脳筋だなあと思ってしまう。さて、俺の方は何をどうデザインに落とし込もうか。

「美奈、マスクケースありがとう。今日はもう帰るし、今度沙也連れて家に行く」
「……わかった……スコーンを焼いて、マリーと、待ってる……」
「スコーンは嬉しいけど、マリー様は、ちょっと」


end.


++++

イシカー兄さんの誕生日が近いということで、プレゼント回。しかし美奈のハンドメイドがどんどん凄いことに
冬になるとやっぱり気になる風邪やインフルのあれこれ。きっと今年もインフルの予防接種に行ってるであろう兄さんよ
美奈がしれっと取引を持ち掛けて来るのはもう珍しくも何ともないし通常運転だなあって!

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