夢物語

□三日月逢瀬
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何も語らない、何も動かない
静寂に守られて…


束の間の安息に身を委ねれば
再び襲う目眩の嵐…


夜が明けるまでひたすらに
繰り返される淫質な行為に
ただただ色を纏う声で己は此処にいると
その存在を叫ぶ…


『…竜っ…竜…』


息を短く吐きながら囁かれた名前に
薄い茶気た瞳が見開かれ
自然と言葉が零れた…


『勇…次…?』


普段なら三味線屋とその名で
呼んでいる…けれど今竜の口から
滑り落ちた名前は…


想えど届かぬ、掴めぬ最愛のその人の名そのものだった。



常人ならば当たり前に許される
名を呼ぶ事ですら二人にとっては
特別な事で身体を重ねるこの時のみ
しか許されず…


−この名前を…捨てられるなら…何処まで愛せたのだろう−


下らないとすら思える戯事を
飲み下し再び…三度と持て余す愛しさを 互いの素肌へと忍ばせる。
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